つくりものの温度
猫のような目をした青年は、呆気にとられたような顔をした。さも意外だという顔をした表情の後で、メガネの奥の目を細めた。そうするとほんとうに猫みたいだった。ぼくは、カンナの部屋の片隅に置かれていた、硝子玉をはめこんだ、リアルにつくられた猫のぬいぐるみを思い浮かべていた。子供の頃のぼくは、あれをひどく怖がっていた。それなのに生きているんじゃないかと思って、手を差し出さずにはいられなかった。つややかな毛並みはひんやりとしていて、やっぱりつくりものだった。
「悪かったね、原川君」
ぼくは振り返らずに歩き出した。角を曲がるまで、ぼくの姿が見えなくなろうまで、背中に視線を感じていた。冷たい、視線だ。それを振り切るように早足になった。
認識されないことも息苦しいのに、執拗に目で追いかけられるのも辛い。