つくりものの温度
それは都市伝説の、みち子さんの話に似ている。都市伝説、というのは主に、あるネット上に存在する、とあるサイトに集中している。交差点で影を見る、という噂は、ごくありふれたものだ。
四つのマンホールのある、交差点。金沢市にあるはざま交差点だという。はざま――間、あっちとこっちの、間。
「君みたいな子はね――」
青年の手が、肩にふれた。
それだけで自分でもみっともないくらい、肩がひくりと震えた。その様子を見て、青年は片方の口元を斜めに歪めた。嗤って、いる? ぼくは睨み返そうとして、けれどその男の視線にたじろいで、うつむいた。
「――危ないね。忠告したのに、ちっとも、あきらめてない」
ぼくは息をのんだ。ひとつ間をおいて、冷静につとめようとした。
「あきらめるもなにも、自由研究ですから」
声は、むなしく震える。彼は面白がるように、わざとらしく声を発てて笑った。
「そうかい?」
「そうです」
また、何か、心をかきみだされた。落ち着かせるために、ぼくは声を低くした。睨みつけて、一瞬視線がかち合った。ぼくはあわててそむけた。彼の目が怖い。
心臓の鼓動が、やたらと耳の奥で響く。肩に伸ばされた手から、逃れるように一歩後退った。つくりものの、手、だとふと思った。夕暮れとはいえ、まだ昼間の暑さが残っているのに、驚くほど渇いていた。じっとりと汗の滲んだぼくの手が、おかしいくらいだった。
「そうだね。あれくらいで君が諦めてくれるとは思っていないよ 。忠告したくらいで、ね」
ぼくが視線を逸らして、脇をすり抜けようとした。
すれ違いざまに、呼び止められた。足もとの影が、随分と長く伸びていた。夕暮れ。ふりかえった彼は、赤い光を背中に受けていた。表情に深い影がおとされる。
「研一君」
思わず息を止めた。ぬるっとした声が、ぬるま湯のように耳の中に入り込んできて、いつまでも耳鳴りのように響く。
観察するように彼が見ていた。冷たい目だった。いや、温度すら感じさせないような、そんな視線を受けて、またぞっと、する。どうして、このひとに逢いたいなんて思うんだろう。
「――気軽に、名前なんかで呼ばないでください」