二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

つくりものの温度

INDEX|18ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 灰色の雲が、あっという間に空に広がった。雨がいまにも落ちそうだった。今にも、重たい雲から、雨が落ちてきそうだった。空気が水分を含んで、呼吸すら苦しい。
 ―――たすけて、とカンナが、さけんでいる。
 ぼくは雨に濡れるのも構わずに、歩き続けた。あの交差点へ、と。
 雲に覆われた空の、西の方がほのかに赤い色に染まっていた。きん、と耳鳴りがして、視界がぐらっと揺らいだ。とつぜん、ぼくの前に影があらわれて、腕を伸ばした。黒い腕は僕のからだを突き抜けて、ぎゅっうと、心臓をつきぬけた。そして僕を通り抜けていった。
 交差点の向こうに、黒い穴がぽっかりと開いた。血みたいに赤い夕闇。さっきの影が、ゆらゆらと揺れていく。揺れているわけじゃない。手みたいなものを、ゆっくりと振っている。ぼくを招いているみたいに。その影のひとつが、段々と輪郭をくっきりさせる。長い髪と、ワンピース。ぼくは息をのんだ。
(ケンイチ)
 そのはかない声が耳にとどく。
 それが顔をあげて、ぼくは彼を見つける。交差点の向こうで、彼がたたずんでいる。つくりもののように、ゆらゆらと。彼が手招きする。とおりゃんせ、のメロディが流れはじめる。ぼくは、昔、近所のおばあさんに教えてもらった、歌詞を思い浮かべた。

 とおりゃんせ とおりゃんせ
 ここはどこのほそみちじゃ
 てんじんさまのほそみちじゃ
 ちょっととおしてくだしゃんせ
 ごようのないものとおしゃせぬ
 このこのななつのおいわいに
 おふだをおさめにまいります
 いきはよいよいかえりはこわい
 こわいながらも
 とおりゃんせ とおりゃんせ

 ――行きはよいよい、帰りは怖い。
 彼が手を伸ばす。ぼくもあやつられたように腕を伸ばす。彼のうしろにぽっかりと、穴があいていた。黒い、影みたいなイリーガルとちがう。はっきりと浮かぶ、彼の姿だった。やっぱり、彼はイリーガルだった。
 ぼくは一歩あとずさった。
 つかまれた途端に、くらくらと眩暈がした。意識が誘い込まれるように。

 夕方の、公園だった。西日がさしこんで、長い影が揺れている。
 ブランコに揺られる、少年がいた。ぼくと同じくらいの。切れ長の、目をしている。猫みたいに鋭い。ぼくの方を見て、笑う。
(あまいものは、すき?)
 ぼくは頷く。
作品名:つくりものの温度 作家名:松**