つくりものの温度
その日、一緒の自由研究をすることになったヤサコたちと、別れた後、ぼくは、閉店間際の花屋に寄って、花を買った。子供の頃からよく知っている、おばさんはぼくの顔に気づいて、困ったようにも見える、笑みを向けた。
――あらあら、ケンちゃん、今日も?
ぼくとカンナのことを知っているのだ。ぼくとカンナが仲良かったこと、カンナが事故で亡くなったこと、ぼくがときどき、ぼんやりとあの交差点に立っていること。ぼくはあやふやに笑みを返す。おばさんは、一瞬の困った顔をひっこめてにっこりと笑って、売れ残りだから、と、おまけしてくれた。
夏の、昼間は長くて、ようやく夕暮れになり、オレンジ色に染まりはじめた頃、メガネを通して見る世界の隅っこに、警告が表示される。――早く家に帰りなさい、ケンちゃん。
オバちゃんが設定した、警告をぼくは無視したけれど、こころの中で、オバチャンに謝った。心配してもらっているのが、わかるのに、どうしても、ぼくはこの場所に足が向いてしまうのだ。カンナが事故にあった、場所だった。
――カンナ。
カンナと、ぼくは幼馴染みだった。小さい頃から、仲が良くて、小五になっても、まだ、つかずはなれず、だった。周りが、女子と男子が微妙な距離を持ちはじめているのに気付いても、ぼくたちは、変わらなかった。だけれど、ぼくは、少しカンナとの接し方がよくわからなくなりはじめていた。カンナの態度も、少し変わったような気がしていて、カンナに対してなんだか少しだけイライラしていた。研一、と名前を呼ばれるたびに、ぼくは何か、もやもやとしていた。
去年の、夏休み、ぼくたちは、自由研究をする約束だった。カンナが、その前に、亡くしたペットを見たといった。クロエ、というペットとのことを、
そしてぼくたちはケンカした。些細なことだ。ぼくは、カンナとけんか別れしたあと、家に帰る途中で、後悔しはじめて、明日になったら謝ろうと思った。明日、それとも夕食の後に。今までのぼくたちだったら、それで、済むはずだった。なのに、ぼくは夕飯の後にも、次の日にも、謝れなかった。簡単なことだから、いつでも、できると思っていた。
でも、もう、それはできない。