つくりものの温度
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交差点だけじゃない。あの日から、狭い街の中で、何度も彼の姿を見掛けた。歩道ですれ違う、彼が車に乗っているのを見た。映像の中にある、バグみたいに、いろんな場所で見掛けた。彼はきっとぼんやりと見つめるぼくの姿に気付いていた。なのに、まるで無視しているみたいで、ぼくは少しだけ苦しくなった。自分が認識されない。認識されないのは、存在しないのとおなじことだ。
ぼくがふらふらと家に帰ろうとしたとき、街の片隅の公園に、あの青年はいた。
彼と、はじめて逢った日に、ことばを交わした場所だった。
ぼくは、ぼんやりと歩いて、いつの間にかその公園の前まで来ていた。そして公園の中を、ぼんやりと見た。何かを探しているみたいだ、と自分で思った。
――何を?
ぼくはふと思いついた答えを否定するように、無意識に首を振った。けれど、目の端に、青年の姿をとらえてしまって、それも無駄だった。ぼくは、彼をさがしていたのだ。無意識のうちに。ぼくは彼のことが苦手だ、と思う。なのに、おかしい。彼とは話したくないと思うのに、どこかで話したいと思っていた。彼が、何かを知っているからなのだろうか、ぼくは自分でも理由が見つけられない。
彼とは、何度か、街の中で会っていた。会うたびごとに、彼はやけに距離を詰めてくる。じりじりとにじりよられているような、気がする。それでいて、街ですれ違う時は、知らないふりをする。