つくりものの温度
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猫目と名乗った青年は、夕暮れの公園のベンチに座って、何かの作業をしていた。キーボードで何かを打ち込んでいる。ときどき、考えるように顎に指を当てた。細いフレームの奥の目が、すっと細められる。とても冷たくて、渇いた目をしている。その目に涙が浮かぶところを、ぼくは想像できない。
ぼくは、気がつくと彼の姿を目で追っていた。何故か目が離せない。けれど、声を掛ける気にはならなかった。ぼくは、彼のことを恐れていた。最初の会った日から、何度か顔を合わせていたけれど、その度にぼくは、いつも怖じ気づいて、こそこそと背を向けた。あれ以上何も話したくはない。彼が何を知っているのか、知りたかったけれど、それ以上にこころを知られることが怖い。誰にも、言えないぼくのこころを。けれど、ぼくは、見透かされて、少しだけほっとしている自分に、気付いていた。それが少し怖い。
猫目、という名前の通り、猫みたいな鋭い目に見つめられると、こころの中を見透かされているようだった。大人には、子供のこころがわかってしまうのだろうか。それとも彼だから、だろうか。
ぼんやりと考えていると、彼の方がぼくに気付いた。あの、渇いた笑みを向けた。そして、ぼくを手招きした。そうされて、ぼくは逃げ出すこともできずに、のろのろと公園の中へ入った。
ベンチの彼の前に立つ。彼は、笑って隣に座るように示した。ぼくは、命じられたわけでもないのに、静かに彼に従っていた。
「やあ、原川研一君」
「…こんにちは」
ぼくが、おずおずと挨拶を口にすると、彼は冷たい微笑を浮かべた。ぼくは、それから目をそむけて、彼と距離を取って、ベンチに座った。ぎし、と小さく音を発てる。ペンキがところどころ剥げた、古いベンチだった。映像のバージョンが古いのか、それとも実物が古いのか、にわかには判断できない。眼鏡を取ればわかるのだけれど、確認することは少し、怖い。
「自由研究は、どう?」
彼はおどけるように言った。からかっているのだ、と、ぼくは、歯噛みした。でも全部の気持ちを押し隠したまま、「それなりに」と小さくこたえた。
「そうかい。ほどほどにね」