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【DRRR】本心【臨帝】

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 漏らすつもりのなかった溜め息が、肺の奥の空気を押し出すように深く出た。
 やはり予想通り真っ青な色をしていた溜め息は、やはり空間に広がり、濃紺になる。
 月夜の闇のように暗く、少しだけ周囲が見渡せる程度の明るさをした色濃い藍色。
 とうに自分の背など通り越して、まだ若いものの、今の彼と同じ背丈をした背中がそこにあった。

「俺は人間を愛してる!人間が何を考え、追い詰められたときに何を考え、どんな行動を起こすのか、もっと知りたい!楽しみだなあ」

 ああ、そうなってしまった。

「俺はもっともっと、たくさんの人間を知って、その性質を知って、いろんな愛情を見つけていくよ。そして俺は人間を愛する!」

 彼の言葉の中にはもう、”自分を愛して欲しい”という言葉が消えていた。
 自分の弱い、心の奥底の本心をもう閉じ込めてしまったのだ。捻じ曲げられた性格と同じように、考え方も、愛情表現も、欲求も何もかもが捻じ曲がってこの人を構成している。

 ふいに目頭が熱くなって、こらえようとして息をつめ、そうして吐き出した息はまた色を持っていた。
 もうこれ以上暗くなることがないと思っていたのに、さっきよりもさらに濃い色が重なり、もうこの空間は完全に真っ暗闇へと包まれていく。

 もう、彼の背中も見えなかった。
 それでも彼の声は聞こえた。それは今の折原臨也の声だった。

「人、ラブ!俺は人間が好きだ!愛してる!!」

 ああ。もうこの人の心の中は真っ暗になってしまったんだ。

「俺がこんなに人間を愛しているんだから、…人間の方も、俺を愛するべきだよねえ」

 彼の声が響き渡った後、ぼんやりとした光が目前に見えた。
 背中越しの光。
 どうやら携帯を開いているようだ。
 ほんの少し近づいて見れば、真っ暗な中ではまぶしいほどの液晶画面に人の名前が浮かんでいる。

 ああ、この人はどうしてそう…。

 彼が見つめている携帯画面には、仰々しい名前が浮かんでいた。
 『竜ヶ峰帝人』と。

「っ臨也さん」

 あんまりにもこの人のうわべッ面がうざくて、本当に腹立たしくて、憎らしかったから気付けなかった。どうやらこの人は、常に周囲に愛して欲しいとSOSを出していて、最近その矛先が、どうやら自分に集中していたということに。
 こんなにも面倒くさい愛情表現、普通気付けという方が無理だ。
 愛して欲しいくせに、その正しい方法を知らないことと、そもそもは愛情を得るための手段として始めた人間観察に夢中になるあまり、彼は逆に人から嫌われることばかりしてきたらしい。
 そうとうにひね曲がった人格だ。
 本当に面倒くさい人だ。

 でもどうやら、すぐに興味を失ってはポイ捨てしていた他者との関係を、僕とは何とか繋げたままにしようと毎日会いに来て、自分に構ってもらえるように工作して、話しかけていたんだろう。
 僕なら、拾ってくれるとでも思った?

「臨也さん」

 もう1度呼べば、瞬きする瞬間に世界は再び真っ白になっていた。
 夢の中とは便利なものだ。
 そうして、これが夢だとわかっているのだから、僕は驚くこともなくその世界を受け入れ、足元でうずくまっている男を見つめた。
 最初に小さな子供がしていたのと同じ、三角座りで頭を膝の間に突っ込んで出来るだけ小さくなろうとしているような姿。
 必死で自分を守ろうとして、自分と世界のつながり方の間違いにも目が向けられない、その様。
 なんて、可哀相な人。