赤い糸
ドイツの言っていることは、正しい。プロイセンとて、ドイツの手を煩わせたくはない。
しかし、大切にされているのがわかるからこそ、時折逆らいたくなってしまうのだ。それはきっと、プロイセンが兄で、ドイツが弟という不変であるはずの立場が、近頃揺らぎ始めているからだ。
優しい腕に、甘えつくしてしまいそうで、少し、怖い。
だからといって、反抗的になってしまうというのは、あまりに大人気ない。それはよくよくわかっているのだが、落ち着かなさに、プロイセンは動揺する。
「兄さん?」
「あ、……いや、別になんでもねえよ」
「急に黙ってしまうから、驚いたぞ」
「なんでもないって」
ドイツは短く息を漏らした。溜息のように重いものではなく、微かに笑ったようなので、プロイセンは顔を上げた。
「ヴェスト?」
「いや、眠いのだろうな、と思っただけだ。だから、大人しくしていてくれ」
なんでだ? とプロイセンが疑問符を浮かべた時には、既に浮遊感に襲われていた。
「うわっ」
「だから、大人しくしていてくれ、兄さん」
気付いた時には膝裏に腕を差し込まれ、軽々に、とはいかないものの、プロイセンの体はドイツによって抱き上げられていた。
「ば、ばかっ、あぶねーだろっ、下ろせって!」
「ベッドに連れて行く、これなら文句は無いだろう?」
「文句っつうか」
「文句は無いな?」
「うっ」
びくともしない、強い腕だった。
すっかり体格は抜かれたと気付いていたものの、こうして近くに肉厚な胸を感じることは無かったので、プロイセンは抱え上げられたこと以上に慌てふためいてしまった。
湯上りの熱い体温が、シャツ越しに繋がり、こちらまで火照りそうだ。
足をばたつかせてみても、膝をがっちり押さえつけられてしまっているので、身動きが取れない。
「おい、ヴェストっ」
「歩けないほど眠いのだろう? なら、文句を言わずに運ばれていてくれ」
ようやく逆らっても無駄なことを認めたプロイセンは、拗ねた動作で落ち着き無い手を腹の上に戻した。
すると、ドイツがおかしそうに喉で笑う。
「なんだよ」
「なんでもないさ、大人しくしていてくれ」
「大人しくしてるじゃねえか」
プロイセンは視線を家具に逸らし、溜息を漏らした。しっかり男前に育った弟の横顔に見蕩れている場合ではない。