赤い糸
その間も、景色は進み、ドイツのゆっくりした足取りから微弱な衝動がプロイセンに伝わる。
「もしかして、お前、結構怒ってる?」
「兄さんがだらしないのはいつもの事だ」
「いつもって程でもないぜ」
「自覚が無いのは困りものだな」
「あ。やっぱり怒ってんだろ」
そっけない態度のドイツの横顔を見上げながら、プロイセンは大人しく体を縮めた。
「……なあ、やっぱ、重い、だろ?」
「重いさ」
「だったら下ろせよな、お前こそ、意地っ張りじゃねえか」
「兄さんに似たんだ」
再び反論を奪われる。
口ばかりか腕まで達者な弟の胸に体を預ける情けなさに、プロイセンはぐう、と唸ったが、その暖かさに気持ちが穏やかになるのも無視出来ない。
自分は、ドイツに甘えてしまっている。今更確認するようなことではないが、嬉しいと思うのと同じくらいの強さで、困惑がプロイセンを取り巻く。
動揺を悟られないように頬を胸に擦り付けると、頭上のドイツが微かに笑った。
「やはり眠いのだろう」
「お前こそ、疲れてるんだろ、俺のことなんか気にしないで先に寝ればいいのによ。明日、早いって言ってたじゃねえか」
「そういうわけにもいかない。兄さんは一人にしておくと、なにをしでかすかわからないからな」
「信用しろって」
「信用はしているが、心配もしている。体調はまだ万全でないはずだ、強がらず少しは安静にしていてくれ」
「お前ってほんと出来た弟だよな」
「怒っている、というのも付け加えておくぞ」
「やっぱり怒ってんじゃねえか」
懐柔に容易く応じないある意味性格の良い返事にプロイセンは噴き出して笑った。
そうこうする内に、プロイセンの部屋へと辿り着く。
「もういいぜ、ここで」
いつまでも抱き上げられているというのは、流石に恥ずかしい。
「いや」
だが、ドイツは首を横に振る。
「兄さん、ドアを開けてくれ」
「だから、ここで良いって」
「廊下に寝られても面倒なだけだ」
拒んでもドイツは食い下がる。
怒らせてしまった負い目のあるプロイセンは仕方ないなと軽やかに笑って、心配性な弟に安堵を与える為に、それ以上拒まずに、ひょいとノブを捻った。
リビングに比べれば寝室は寒く、空気が凍ったように冷え切っている。思わず身を竦めたプロイセンを守るように、ドイツの腕が強くなった。
「……っ」