赤い糸
プロイセンは、はっとドイツの横顔を見上げた。
「兄さん?」
「ぁ……」
視線がぶつかり、プロイセンは慌てた。
今、確かに何かを感じたはずなのだが、一瞬で消えてしまい、手繰り寄せることが出来ない。わかるようでわからない、嫌な感覚だけが残った。
「兄さん……?」
ドイツも、驚いた顔で、プロイセンを見つめている。互いに逃れられなくなり、先にプロイセンが剥がし取るように、無理矢理顔を背けた。
「なんでもねえよ。それより、格好悪いから早く下ろせ」
「ぁ、ああ。……先に部屋をあたためておくべきだったな」
ドイツの追ってくる眼差しに気付かない振りをし、プロイセンはベッドに下ろされるなり、大げさな動きで布団の中に潜り込んだ。
「ベッドに入ってりゃすぐにあたたかくなるぜ。それとも、お前も一緒に寝るか?」
「馬鹿なことを言うな」
からかわれたドイツは、むす、とした顔でプロイセンの言葉を一蹴した。
「はは、冗談じゃねえって。本気なんだぜ」
プロイセンは心のしこりを意識しながら、布団の中からひょこりと顔を出して笑った。
そうすると、想像通りのドイツの眉が中心に寄る。
「ちぇ、昔はずっと一緒に寝てたのによ」
「ベッドから蹴落とされるのは勘弁願いたいからな。兄さんは寝相が悪い」
「お前の体がでかいだけだろ」
「……ほら、そんなことはいいから、大人しく寝てくれ」
ドイツの大きな手が、プロイセンの額を押さえるように撫でる。
ベッドの中は冷え切っていたが、徐々に体温が移り、丸めていた足を少しずつプロイセンは伸ばした。ドイツの体温が心地良く、一度は騒いだ心も落ち着きを取り戻す。
あの瞬間、何かをプロイセンは思い出し掛けた。だが、それが何なのかがわからない。気にし始めると、止まらなかった。
「なあ、ヴェスト」
「なんだ?」
眠るまで撫でている気なのか、優しく髪に触れるドイツを、プロイセンは見上げた。
「なんだか俺、お前に何か言い忘れてたような気がしててよ」
「俺に?」
唐突な問いに、ドイツは首を捻る。
「特に心当たりは無いが」
「さっきさ、お前の顔見てたら、何か思い出したような気がして、でもそれがなんだかわからねえんだ」
「何かを壊した、とかではないだろうな」
「ば、ばかっ、最近はなんも壊してねえよ。本棚だって、漁ってねえし」
「兄さん!」