赤い糸
怒ったような恥ずかしそうなドイツの悲鳴に、プロイセンは声を上げて笑った。ドイツも呆れた顔から徐々に釣られるように笑い始めた。
「でもさ、そういうことじゃねえんだよ、なんだかわかんねえんだけど、気になってはいるんだ。けど、思い出せねえ」
「無理に今思い出す必要は無いと思うが」
「でも、思い出せねえと気分悪いしよ。だんだん苛々してきたぜ! 今思い出すからちょっと待ってろヴェスト」
思い出そうとすればするだけ、深みにはまっていくように、糸に絡め取られるように、思考の暗礁に乗り上げる。
感じた瞬間手を伸ばし、捕まえることが出来ればよかったと後悔しても、もう遅かった。
「兄さん」
「まってろって」
「いや、今無理に思い出す必要はない。……眠る前に、頭を使うと眠れなくなるぞ」
「俺がいつも頭使ってねえみたいに言うな」
てっきり呆れた顔でもしているのかと思って見上げたドイツの表情は、プロイセンを案じる色に染まっていた。
「ヴェスト……」
「無理をするな」
「無理はしてねえよ」
大丈夫だと言ったところで、ドイツは簡単には納得してくれない。経験上知っているので、プロイセンはやんわりと自分を折った。
「わかったって、ちゃんと寝るから。お前まだ心配してんの? もう熱もねえし、大丈夫だって」
「兄さんは、少し良くなるとすぐに忘れるからな」
「元気なのに寝っぱなしってわけにもいかないだろ? 動いた方が健康になるとおもうぜ」
心配性だな、とプロイセンは腕を伸ばし、弟の険しい頬を撫でた。
心配されるのは、嫌ではない。きっとドイツ以外の誰かだったら素直に受け入れられないだろう。ドイツだから、弟だから、プロイセンも力を抜くことが出来る。
そして、何よりこの弟は、プロイセンが甘えるのが嬉しくて仕方ないようだ。顔にはあまり出さないものの、気配から嬉しさを滲ませられれば、プロイセンとしても、ついつい甘やかされたくなる。
甘やかされるのが良いのではなく、甘やかすことで嬉しがるドイツを見ているのが、くすぐったさがあって嬉しいのだ。
素直になりきれないプロイセンは、言い訳を並べて自分を正当化させた。ただ、純粋に嬉しいと認めたら、負けてしまったような気がする。
「心配性すぎるぜ、ヴェスト」
「……そんなつもりはないのだが」