幼馴染パロ 短編集
脅迫じゃないよ、お願いだよ
<脅迫じゃないよ、お願いだよ>
「ねぇ折原君。折原君って格好いいよね~彼女とかいる?」
「いないよ。でもどうして?」
「えー、彼女立候補、しちゃおうかなってぇ」
「あはは冗談は顔だけにしてよ、現在2股中で大変でしょー?そこに俺入れたら3股だよねぇ、高1にしてすでにアバズレ?ってもう将来は決まっちゃったかなぁ、はははは」
入学式の直後、HRで自己紹介を終え、帰ろうとした矢先のことだった。
学区内でも進学校にあたるこの来神学園は今年の入学者が少なかった。
その原因の1つである折原臨也が放ったこの言葉によって、教室内にいたクラスメイト達は凍りついた。
「な・・・な・・・・」
「なんでそんなこと知ってるかって?それはねぇ、俺が人を愛しているからさ!愛してるから知りたい、なんでも知りたい、知り尽くしたい!まぁ俺の愛は全人類に対して分け隔てなく平等に与えるべきもので?君個人を愛してるわけじゃないから、ははっ、ここ重要」
立ち上がって両腕を広げ語り始めた臨也を見て、女生徒は口をぱくぱくと開閉させるだけだった。
静けさに包まれた教室内に、美声だけど理解できない内容の演説だけが続いている。
動けない緊張感の中、クラスメイトたちの目に一人の男子生徒が立ち上がったのが見えた。
臨也を止めるのかと思ったが、その少年は何を思ったのかひょいと自分の机を持ち上げた。
まだ教科書が入っていないからなのか、いやに軽い所作で上げられた机を茫然と臨也以外の全員の目が追った。
「それでさ、人間っていうのは想像外の動きをすることがあってね、そういう現象がおき――」
「うるっせぇんだよ死ねいざやぁぁぁぁっ!!!」
音にすればドガッシャーンだろうか。
つい一瞬前まで臨也が立っていたところに、机が叩きつけられる。
バラバラに砕け散ったそれを見て、ようやくクラスメイト達は悲鳴を上げながら教室から脱出することに成功した。
それでも怖いものみたさで、廊下からこそっと教室内を伺う。
すると机が飛び、その合間をナイフが飛び、そして黒板の一部が投げられ、窓ガラスが割れた。
口をあんぐりと開け固まったクラスメイト達の目に、さらに新しく少年の姿が見えた。
「あっ、あぶな・・っ!」
クラスメイトの1人が思わず声を上げる。
教室内で戦争を繰り広げる2人とは違って、その少年は見るからに線が細く、まだ中学生・・下手したら小学生にも間違えられそうなあどけない姿をしていた。
小柄なその少年は、ひょこひょこと器用に机やナイフの間を避けて通ると、まず折原臨也の背後に忍び寄った。
臨也の向こう側に少年の姿を認めて、静雄の動きがいったん止まる。
その隙をついてナイフを刺そうと一歩進んだ臨也の後ろから
「動くと燃やすよ」
カチンと少年の手には似つかない100円ライターが赤い炎を揺らしていた。
まるで一時停止ボタンを押したように臨也は動きを止めた。
その向かい側で、静雄も動かない。
「もう、2人ともダメじゃない・・・高校に入ったら大人しくするって約束したよね?」
「・・俺は大人しくしてたよ。それを机投げてきたのはシズちゃんの方だし」
「ちゃん付けすんな殺すぞ。あー・・・その、臨也がなんか女泣かせようとしてたから」
「そんなことしたの臨也?ちょっと僕がトイレ行ってる隙に何してるの」
「してないよ!言い寄られたからフっただけだよ!」
「べらべらうぜぇこと喋ってたぞ」
「そのチクリみたいな真似やめてくれない!?つかホントに机投げてきたのそっちだし!シズちゃんから喧嘩吹っかけてきたんじゃん!俺じゃないよ帝人君!」
そこで初めてクラスメイトたちは、そのライターを持った少年がクラスの1人だということを思い出した。
竜ヶ峰帝人、なんてごつい響きをもつ名前と、あどけない少年の姿が一致しないなぁなんて誰もが一度は思ったのだ。
どこからどうみても平凡な姿の少年は、「連帯責任で」と冷たい声で告げている。
さっきまで戦争と呼ぶにふさわしい暴れ方をしていた2人が、帝人の声にしょげて肩を落とした。
「はぁ・・・入学早々片付けしなきゃいけないのか・・・もうみんなはいないんだから、2人ともちゃきちゃき働いてよ」
「はいはーい。ったく中学のやつらも酷いよね。一緒に来神に入ればよかったのに」
「仕方ないよ、もう臨也と・・・臨也に人生邪魔されたくないんだよ」
「ちょっとなんで俺だけなの、シズちゃんは!?どう考えてもシズちゃんの馬鹿力のほうが生命の危機だったと思うけど」
もう使い物にならない机や椅子の残骸を教室に隅に寄せていく。
一方だけが騒々しい掛け合いをしている後ろで、静雄が割れた黒板を直そうと四苦八苦していた。
どう考えても直らないだろうに、砕けたかけらを割れた部分にはめてみれば崩れていく、を繰り返している。
「静雄はちゃんとしてるから、臨也以外の人間は殺しませんー」
「俺だってちゃんとしてるよ!帝人君だけは殺さないよ!ここ俺の愛を感じてくれていいところだから」
「お前は死ね」
「急に話にはいってくんな!シズちゃんの馬鹿!空気よめ!」
「「臨也にだけは言われたくない」」
「ハモらないでよ!」
ちぇっと口を尖らせた臨也が足元の木片を蹴飛ばす。
足の横にぶつかったそれを見下ろして、静雄の額に青筋が浮いた。
「こら!2人ともこれ以上喧嘩したら僕怒るよ」
カチカチと何かの合図のように、ボールペンを鳴らしている。
あまりの事態に飽和状態の頭を傾げるクラスメイト達の前で、教室内は綺麗さっぱりと・・・机も椅子もなくなった。
「さてと」
と言って、ボールペンを持ったまま帝人が廊下を振り返る。
思わずびくっと肩を揺らすクラスメイト達に、にっこりと微笑んで
「これから―――よろしくね?」
と告げた帝人の言葉の中に「後片付け」という文字を読み取って、力なくクラスメイト達は頷いた。
(進学校の割に倍率低かったのって・・・この3人がいたからか!)