SSS×3本
頭を抱えた花井が卵焼きを頬張りながら言う言葉にいち早く反応したのは阿部で、その顔は余計なことを聞くんじゃねぇと主張していたけれど、残念なことに阿部の主張が言葉になる前に項垂れていた水谷が勢いよく顔を上げた。
「だって、栄口が遅れてきたら一緒に瞑想できないから手が繋げな、いったー!」
スパーンと響き渡った音は水谷の向かいに座る栄口とその隣に座った阿部から飛んできたノートでの打撃や自身の力強い拳でもってして水谷に与えられた攻撃の音だった。
痛みに頭を抱える水谷と頭痛に頭を抱える花井、怒りに僅かに顔を赤くする阿部と、真っ赤に染めた栄口。
「恥ずかしいこと言うな!」
動揺を隠そうと早く動く手が咀嚼しきれていないのにどんどん弁当箱の中身を口の中へ運んで行くのが、余計栄口が照れているんだろうということや、実は少し嬉しいなんて思っていることを第三者に教えていることを知っているんだろうかとひっそりと花井は思う。
きっと阿部も同じことを考えてしまったのだろう、吐き出されたため息の末に水谷の弁当箱の側のまだ未開封のミルクティーにストローをさした。
俺のミルクティー!と叫びを上げる水谷に俺の飲んでいいよと飲み掛けのレモンティーを差し出す栄口。水谷はいいの?と伺いながらレモンティーの紙パックに嬉々として手を伸ばした。
「…瞑想ぐらい好きなだけやれよ」
双子の妹好みの甘い卵焼きを飲み込みながら、水谷の手が伸びる栄口の飲み物を阿部が横からするりと取り上げストローをくわえたことを見なかったことにして、それを見た水谷が上げた「俺の間接キスー!」という叫びは聞かなかったことにする。
空は高いし気温も調度良い。
穏やかな野球日和だった。