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ネイビーブルー
ネイビーブルー
novelistID. 4038
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力の名前

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 その言葉に含まれた意味を敢えて分からないフリをして返事をし、マツバは「帰ろう」と彼を促した。しかしその瞬間、Nはハッと顔を上げると、「待って」と言って辺りを見回した。何を探しているのかと思った瞬間、水際に駆け寄る。
「どうしたんだい」
「サニーゴがいる」
「また、怪我をしているの?」
「いや、違う。さっきの子の兄弟みたいだ」
 Nは足が濡れるのも気にせず海に入ると、腰を屈めてサニーゴと視線を合わせ、「君の兄弟なら、さっき沖の方に行ったよ」と話しかけた。
「心配しなくても良い。さっき、傷を治してもらったから。うん、うん……そうだよ。本当に、人間は酷いことをする」
 まるでポケモンと話しているようだ。……ポケモンを大事にする人に対して、そのように思ったことは幾度もある。しかし、マツバは妙な心地がした。これまでのトレーナーと、彼は何かが違う。
 もしかして彼は、本当に、ポケモンの言葉が分かるのではないか?
「そう、そっちだよ。じゃあね、気をつけて」
 Nが屈めていた身を起こし、マツバのほうを見て笑う。それに微笑み返し、マツバは「帰ろう」と言った。疑問が胸の中でふくれていた。


 *


 マツバと海へ行った。海を見るのは初めてではなかったが、ヒウンシティには砂浜はなかったから、砂浜を見るのは初めてだ。本に書いてあるとおり、さらさらしていて柔らかく、少し歩き辛かった。
 その帰り、マツバの家に着くと、珍しく来訪者がいた。ドアの前で腕を組んだ男と、その傍らに立つ、娘らしき女の子だ。彼らを見た瞬間、Nは何とも言えない嫌な感じを覚えた。プラズマ団の下っ端たちを見たときのような……違う、似ているけど、もっと異質な感じだ。
「ジムリーダー、マツバだな」
「はい」
 高圧的に言った男に、マツバはいつもどおりの緩やかな笑みを浮かべた。しかし男はそれが気にくわなかったようで、突然激昂した。
「お前のところのゴースに娘が襲われた。ポケモンはボールに入れて管理しろ。そいつらが、お前のいない間に勝手に町をうろついては子どもを襲うんだ。全く、迷惑きわまりない。ジムリーダーだからといって、好き勝手振る舞って良いと思い上がっているんじゃないだろうな!」
 Nは眉を顰め、「失礼だな!」と言い返そうとした。男の言うことは事実無根であったからだ。しかしそれより先に、「失礼ですが」とマツバが言った。きっぱりとした口調だった。
「ぼくのゴースは、無闇に人を襲ったりしません。また、ぼくに無断で家の敷地外に出たりしません。それは絶対です」
「そんなこと、言い切れるものか」
「言い切れます。彼らはぼくの命令を違えません。その彼らがもし人に危害を加えようとしたのならば、それは、先に危害を加えられそうになったときです。……そう、たとえば、そこのお嬢さんが、庭に入り込んで彼らに向かって石を投げたとか」
 父親らしき男の頬に、さっと朱が走った。
「お、お、お前は、うちの娘がそんなことをすると言っているのか」
「いいえ、ただのたとえ話ですよ。しかしもし、ぼくのゴースがお宅の娘さんを襲ったとなると、なかなか考えづらい話ではあります」
 ここまで聞いて、Nはようやく、マツバが怒っているのだと気づいた。彼の表情も口調も普段と変わらないが、渦巻く空気が怒りを孕んでいた。そして恐らくそれは、マツバが言った「例えば」が正解だからだろう。少女がなぜそんなことをしたのかは分からないが、前にも何度かあったのかも知れない。
 それにしても、もし本気でゴースがやり返したら、少女の命はとっくにない。ポケモンはそれだけ大きな力を秘めているのだ。手加減して、驚く程度にしたのだろう。感謝しても良い位なのにと考えていると、男が突然大きく目を開き、「まさか貴様、『見た』のか!?」と声を荒げた。
「いいえ」
「嘘を吐け、『見た』んだろう!」
「いいえ。ぼくは嘘を吐きません。どこかの女の子と違ってね。でも、信じていただけないのなら仕方がないですね」
 父親は肩を怒らせ、マツバを睨み付けると「気味の悪い奴……忌々しい化け物が。いい気になるなよ」と吐き捨て、少女の手を引いて帰っていった。少女もこちらを睨んでいたが、何とも言えない嫌な顔つきだった。子どもは多かれ少なかれ純粋さを秘めているが、それをそっくりそのまま意地悪さに置き換えたらあんな顔になるだろうか。Nが黙っていると、マツバは「変なところを見せちゃったね、ごめん」と曖昧な笑みを浮かべた。
「いや、構わない。でも……あの人たちは何?」
「たまにいるんだよ。ゴーストポケモンは、一般的にはあまり好かれるような存在ではないからね。彼らがゴーストタイプというだけで無条件に攻撃を仕掛ける人たちが」
「そんな……そんなの」
「うん、とても酷いことだよ」
 英雄や他のポケモンを大事にする人々、そしてマツバに会って、人とポケモンはお互いに信頼しあえるのだと思えてきたのに。Nはショックを受けた。
 やはり、人間とポケモンは切り離すべきなんだろうか。……分からない。
「ああいう人は、ポケモンだけではなく、人間のことも攻撃する」
 マツバがぽつりと言った。珍しく抑えた声色に彼の方を向くと、彼は苦しそうな顔をして「化け物というのは簡単だよ。言われる方の気持ちなんか分からないからね」と自嘲した。
「化け物って、どういうことなんだい」
「……ぼくにはね、普通の人にはない力があるんだ」
 マツバはちょっと悩んで、「君になら良いかな」と呟いた。そして、「ごめんね、もし嫌だったら言って」と言い、Nを真っ直ぐに見据えた。その刹那、マツバの紫がかった瞳の色がすうっと薄くなった。
「……N。君が生まれ育ったところは、お城みたいなところなんだね」
「え?」
 どきりとした。なぜ分かるのかと、動揺が心中を走る。しかし、マツバはNの動揺など気づかないように続けた。
「君が人間よりポケモンに親近感を抱くのは、君がポケモンと共に育ったからだ。それも、一般に言う共にではない。ポケモンと共にというよりは、人間と共には育たなかったと言った方が良いのかも知れない。君はポケモン、特に傷ついて人間を信じられなくなった彼らと共に幼少期を過ごした。そしていつしか、彼らを人間たちから解放しなければならないと考えるようになった」
 自分の過去が甦る。プラズマ団、父親ゲーチス、そして英雄。
「やめろ!」
 マツバが口を開くより先に、Nは叫んでいた。その瞬間、マツバの瞳の色がすうっと戻る。彼が目を伏せると、いつの間にか緊張していたらしい肩がふっと下りた。威圧感が解かれる。
 今のは何だったのだろう。呆然としていると、彼が「ごめん」と言った。
「見てもらうのが一番良いと思ったんだけど……嫌な思いをさせたかな、ごめんね」
「いや。それより、今のは?」
「これがぼくの能力。そして、化け物と呼ばれる理由さ」
 マツバは寂しそうに笑い、「千里眼と言うんだ」と紹介した。
「千里眼?」
 本などでも知り得なかった単語に、知らないうちに眉が寄る。マツバは極めて軽い口調で「そう、千里眼」と繰り返した。
作品名:力の名前 作家名:ネイビーブルー