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もうひとつの日常2

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ぴょこんと海江田の隣で跳ねたシーくんをちらりとも目に入れることなく深町は言葉を続け、やまと・・・いや、海江田らに正気に戻れと言葉を続ける。発令所の空気は張り詰め、ピリピリとした薄い電気の流れのようまで感じられるような中、海江田はまるで動じることなく微笑み、相手にされないシーくんはそれでも深町の注意を引こうとその周りをくるくると歩き、服をひっぱり、シーくんもいるですってばー、と飛び跳ねる。それを全員が華麗に無視して、深刻な話は進んでいく。



「深町、やまとは既に一国家として、世界に影響を与えているのだ」
「なにトチ狂った事言ってやがる・・・」


ギリっと奥歯を噛み締めた、今にもつかみ掛からんとする深町に対して涼しい顔をしている海江田は、それまで深町の傍を飛び跳ねていたシーくんを手招きし、その両肩に手を載せて微笑む。するとさすがの深町もようやくその子供に注意を払う。さっきまですっかり無視されていたことに腹を立てていたシー君は、片方の頬を膨らませて、遅いですよ、とぶすっとしている。


「こ、子供じゃねぇか・・・こんな潜水艦の中になんで子供が・・・っ」
「彼は国だ」
「はぁ?」


全てを説明したあと、それは深町の許容範囲を超える出来事に頭を押さえた。
・・・・・・・・海洋国家、いや海上国家?国家の偶像?国の意思?ああ、手に負えない。
皮肉なことに自分と相反する立場であるはずの深町の気持ちをよっぽど理解できる山中は深町と同じように重い重い息を吐き出した。お前も独立をするならば、シーくんがやってくるかもしれないな、と冗談めかして言ってみた海江田の台詞はしかし冗談ではなかった。





その後、米軍からの攻撃が始まりやまとを降りざるをえなくなった深町を呼びとめた海江田は、微笑んだ。手には両脇を持ち上げられてぶら下るシー君の姿がある。いやな予感と非常時に眉を寄せた深町だったが、海江田の言わんとしていることは理解したらしく、ひったくるように嫌がるシーくんを小脇に抱えてたつなみへと戻った。シーくんを連れ出していったことにやまと国民となった隊員全員がほっと安堵したのもつかの間、そのままやまとは激しい戦闘の中へと向かっていった。







「えー、日本ですか?日本はなんか地味なやつですよー、あれでよく国がつとまるもんです。イギリスの糞野朗なんて・・・」

いつの間にか、シーくんの面倒をすっかりまかされてしまった速水は内心で溜息を漏らしながらシーくんの世話をやいた。そのうちに分かったことだが、どうやらシーくんが話しているのは日本語ではないらしい。口の動きが違う。どういう仕組みなのかはさっぱり分からないが、この欧米の少年にしかみえない彼は所詮は人間ではないわけで、しかも今彼の国で売っている爵位を日本人が面白半分に買いあさることも関係しているのか日本語ではないが、しかしまあ日本国民の理解できる言葉を話すという。国とはそういうもんですよー、となんでもないように胸を張ったシーくんに更に溜息がつきない。



やがて極秘裏に陸に上がったたつなみの面々の前に金髪の、眉毛の立派な青年が現れた。
険しい表情をした青年がぎろりと睨んだのがやまとの説得に失敗したたつなみの面々か、と速水が思ったのも一瞬のことでその目がすぐに向いたのはシーくんだった。それでも(ああ、子供がこんな場所にいるからか。後で面倒な事になりそうだ)と思った。だがすぐに様子が変わった。手をつないで上機嫌でいたシーくんが、その金髪眉毛の顔を見た瞬間

「ぎょえええええ!!!イギリス!!!!」

と叫んで速水の後ろにばっと隠れた。深町も立ち止まり、その怪しい金髪の青年に目を留める。金髪眉毛は心底疲れたように呆れたように表情を曇らせ、歯切れが悪そうに眉をしかめる。


「この馬鹿が迷惑をかけたな」


この日本の一大事に・・・、と呟いたところでもうなにもかも面倒になった速水は、これ以上面倒ごとが増えないよう、またにこりと好青年の笑みを浮かべてシーくんを逃げられないようつかみあげてぐいっとその金髪眉毛に引き渡した。「ぎええええ!!!けんじの裏切り者!!!裏切りものですよおおお!!!けんじのばかあああああ!!」とぎゃあぎゃあ喚くのも華麗にスルーして、もうこれ以上面倒ごとには関わりたくないとばかりに金髪眉毛の腕に強引に抱きつける。



「もう連れてこないでください」
「ああ、約束する」
「それは無理ですよ!シーくんは世界最小国家として先手をですね・・・」
その口を両手で押さえて、もう一言だけ仏頂面で「悪かった」と詫びて、金髪眉毛はさっさと引き上げていった。






「ああ、私は確かに聞いたんだ・・・。やまとの中で子供の声を聞いた・・・深海の中で、子供の声をしっかりと聞いたんだ・・・」


後に、この事件のことは、何も聞かされなかったライアンによって独立国家やまとの最初で最後の怪談話となってまことしやかにささやかれる事となった。




作品名:もうひとつの日常2 作家名:山田