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もうひとつの日常2

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ベースボール





パパなんて嫌いだ。

そう呟いたのが何度目になるか分からなかった。
ホワイトハウスの芝生に座り込み、ホワイトハウスの壁に向かってボールを投げて、それを何度もキャッチすることを繰り返していれば、いつも影のようにつき従っていたシークレットサービスの一人が怪訝そうに眉を寄せる。その目が心配しているのはホワイトハウス、レジデンスの壁だ。歴代合衆国大統領の住まい。それがやけに忌々しく思え、彼の心配を知りながら無遠慮にボールを投げつける。

リトルリーグの準優勝。
所属している野球チームの準優勝。優勝はピッツバーグの強豪チームだった。この試合がリトルリーグでの最後の試合。次はハイスクールに上がって、また一からシニア達からポジションを奪っていかなくっちゃ到底試合なんてできっこない。6歳の頃からずっと続けていた、ワシントンナショナルズの最後の試合。

「見にくるって、約束してくれたのに」

不安だった。パパが本当に来てくれるのかどうか、すっごく不安だった。

だけどなんとなく分かっていたような気がする。きっとパパはリトルリーグの試合なんて見にきてくれないって。第一、パパがきたらパパラッチだって護衛の黒服だってぞろぞろついてきてとても試合どころじゃないんだし・・・。もし本当にパパが来るんだったら、試合場所も近所のハイスクールのグラウンドじゃなくて、もっと警備のしやすい面倒な場所に変更になったり、頭のてっぺんからつま先までボディチェックされたり、色んなことが起こったんだろう。


パパなんて、こなくてよかった。


そう思い込もうと思ったけれど、心の中でついた嘘はとてもちっぽけで弱弱しくて、呟けば呟くほどさみしい気持ちが込み上げる。6年前なんて、まだ12歳の僕からしたら大きすぎる時間で、その半生の集大成だった。リトルリーグに入ったばかりの頃はパパだって忙しい仕事の合間で見にきてくれた。だけど今は、もうパパはパパじゃない。僕だけのパパじゃなくて、このアメリカ合衆国の大統領だ。僕ひとりの手をつないでくれるパパじゃなくて、合衆国中の人間を導くパパだ。そんなことは痛いほど分かっている。ヒストリークラスのミスマルティネスなんて、アメリカ合衆国大統領の息子に歴史を教えている自分がとことん大好きだから。


―‐‐―――――でも、ベースボールの前では全て正直だ。
いくら僕が大統領の息子になってしまったとしても、練習をきちんとしてなけりゃバットを振ってもボールは当たらない。死ぬ気で走ってジャンプをして腕を伸ばさなくっちゃフライはキャッチできない。名前じゃない。名前も、出身地も、年齢も、全ては無意味なものになってしまう。ベースボールの前で、全ては“無”だ。実力だ。ベースボールは正直で、正しい。そのベースボールの前では、僕らはみんなただのベースボールを愛する子供だ。大統領の子供じゃない。僕そのものでいられる。


「アメリカなんて嫌いだ。パパなんてもっと嫌いだ」
「それは最高にクールな発想だね!」


突然無遠慮にかけられた声に驚いて振り返ると、海兵隊のフライトジャケットを羽織った眼鏡の男だった。
何度か顔を見たことがあった。ここでやる“プライベートなパーティー”に何度か顔を出していたような気がする。だったらあやしいやつじゃない。・・・・・人をこうやって品定めするようになったのも、全部パパが大統領になってからだ。でも今は一人にしてほしい気持ちだったから、僕はそいつを無視してまた壁にポールを投げつける。何度かそれを繰り返しながら横目でそいつをちらっと観察したら、そいつはなんだかにやにやと笑ったかと思ったら、ひょいっとボールの前に飛び出し、壁に向かって真っ直ぐに吸い込まれるはずだったボールを片手でキャッチしてしまった。


「うーん、良いコントロールだね。でも俺の動体視力の方が上だったかな」
「ほっといてよ!さあ、ボール返して。じゃなきゃ僕とキャッチボールでもしてくれるってわけ?」
「そいつは良いアイディアだね!でも、もっと面白いことをやってみたいと思わないかい?」


そいつはにやっと笑ったかと思ったら、呆気にとられる僕をひょいっと担ぐように肩に乗せてすたすたと足早に歩き出した。誘拐だ!!!!咄嗟に声を上げて近くに立っていた黒服を呼ぼうと思った。なのに僕を荷物のように担いだ男が「大統領に伝えといてくれよ!夕食までには返すからってさ!」と叫んでしまえば黒服はもう追ってこない。彼らを動かせるのは大統領だけだ。どういうこと?夕食までには返す?


「な、なにもの?」
「正義のヒーローさ!」


正義のヒーローと名乗った不審者ことアルフレッドは、僕を担いだまま止めてあった車に放り込む。
やっぱり誘拐じゃないか、と思ったけれどもう抵抗するのもなんだか馬鹿らしくてされるがままになっていれば、助手席に座った僕の顔を上から下までしっかりと眺めて「君って大統領に似てないんだね」とのたまった。ほっといてよ、とぷいっとそっぽを向いてやればアルフレッドはゲラゲラと笑って「よかったじゃないか!君の方がずっとハンサムだよ!」と褒めてるんだかなんだかわからない言い方で一人で笑って一人で満足して車に乗り込んできた。きっとこいつはカリフォルニア出身に違いない。


「さて、と。どっから行こうか?デニーズ?トイザラス?それともフロリダまで行って新しいハリーポッターのアトラクションでも見物に行こうか?あ、でもハリーポッターはアーサーんちのやつだからなんか癪だし、やっぱりハリウッドにしよう!」
アメリカ人ならアメリカ映画だろ!と笑いながら車はすでに発車している。ホワイトハウスをするすると簡単に抜け出し、車は郊外目指して走っていく。アルフレッドが一体なにものなんだか、僕に何をしたくて何をさせたいんだかさっぱり分からず、もう半ば諦めるようにシートに深く腰を下ろして、こいつは一体パパの何なんだろう、と考える。まさか今日のお詫びにどっきりプレゼント?外に連れ出してくれるのはありがたいけど、こいつじゃないやつがよかった・・・。


「ねえ聞いてる!?君はウルスラ・アンドレスとモンローならどっちがアメリカのセックスシンボルにふさわしいと思う?」
「セ・・・っ」
「モンローもかなりセクシーだけど、やっぱりボンドガールってのは大きいよね!あ、モンローといえば・・・」
「前みて前!!!!」


前にイエローキャブが飛び出し、アルフレッドの顔を強引に前に押し遣ってハンドルを横から握って慌ててイエローキャブを避ける。イエローキャブからけたたましいクラクションと一緒にスラングが飛び出し、驚きで目をおもいっきりあけて、どきどきと高鳴る心臓を押さえる僕にアルフレッドは高らかに声を上げて笑い出す。「心配しないでよ!このペンシルバニア通りを俺は誰より長く運転してるんだからさ!もう目を瞑ったって運転できるとも!」とウィンクまでして見せたアルフレッドに僕はもう心底溜息を漏らした。まだ心臓がどきどきいってる・・・もうなんなんだよ、こいつ・・・。

「でも飛ばすなら飛ばした方がいいかもね。あと30分でプレイボールだからさ」
「はぁ?」
作品名:もうひとつの日常2 作家名:山田