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Cb.Senza sordino

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遠慮がちな態度が、本当にいつになっても外れないなぁと思って笑えば栄口が小首を傾げる。 なんでもないよ。弾いてみて。
静かに促したら、栄口が弓を引く。
空気を伝って届いたのは予想通りの第三楽章。カノンで展開する葬送行進曲は重くけれど歩みを止めたりはしない。
ゆるやかなリズムの中に時折はしゃぐような相づちを打つオケを思い出すと自然腕が振れる。
想い描いた旋律が音の雫になって溢れだした。

「……あれ?」

紡がれていた音がぴたりと止まる。閉じていた目を開くと、栄口は弓を持った右手をだらりと体の横に垂らし、俯いていた。

どうかした?と問う暇は与えられなかった。
コントラバスを静かに横たえた栄口の顔は真っ赤にした顔でまっすぐにこちらを見る。

「俺…」

この空気感には覚えがある。
震える栄口の手も唇も。

「俺、水谷のことが好きなんだ」

え、と思った時には栄口はもう部屋を飛び出していってしまっていて、小さな部屋に残ったのはピアノとコントラバスと栄口の荷物と俺だけ。
疾風のごとく姿を消した栄口の荷物を見ながらぼんやりとこの荷物とコントラバスどうすんの?と思う。気が動転しているだろう栄口と違って至って冷静な思考が栄口ってホモだったの?とまた1つ疑問を増やす。
あれ、でも前に彼女いたって言ってたよな?
ん? バイ?
……なるほど。
妙に納得してしまうのは、きっと栄口の懐の広さとひたむきさや純粋さを知っているからだ。 偏見に惑わされない物の見方がきっとまっすぐな心を育てたんだろうと思う。
だとしたら、栄口から向けられる好意はとても真摯なものじゃないだろうか。
きっと長い間悩んでくれたに違いない。言ってしまった後に大切なコントラバスを置いてまで姿を眩ましたかった程に。
そのまっすぐな気持ちに、きちんと向き合わないのは間違っていると思う。高校時代来るもの拒まずだった自分の過去とけじめをつけるためにも。
鞄の中から取り出した端の折れたルーズリーフにペンを滑らせた。

ありがとう、今すぐ返事は出来ないからちょっと時間をください。
あと演奏についてだけど、栄口は恥ずかしいって言ってたけどやっぱり俺弱音器外した方が良いと思うんだー。


性格が出てると栄口が笑ったふにゃふにゃの文字が右上がりにならんだルーズリーフを、寝転がるコントラバスの上にそっと置いた。
作品名:Cb.Senza sordino 作家名:東雲