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ゆっくりとおとなになりなさい

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「コントロールの悪い投手の球捕る技術はもう忘れました」
「最近はそんなでもねーよ」
「……知ってます」
「じゃあ、」
「捕りたくないんです」
 榛名はしばらく意味を掴みかねた表情をしていたが、阿部が視線を合わさないでいると、ちいさく舌打ちしてブルペンの方向へ歩いていった。
「なんだ。仲良くなったかと思ったらそういうところは相変わらずなんだな」
「……悪化してますよ」
 苦笑交じりに訊いてくる監督の目は見ずに答える。
 捕らない、でもあったし、捕れない、でもあった。対戦するかもしれない一投手としてデータを録ったときに、最近は榛名にも制球力がついていることは知っていた。だが、自分がホームに座っている図をイメージしたとき、正面にいるのは中学時代の榛名の姿だった。試合を投げ出した最低で最悪の投手。それ以下ではあり得ても、以上ではなかった。そうでなくてはいけないのだ。今更それ以外の姿をみせられても困るだけだ。箱に入れて蓋をして、封をして奥の奥へ仕舞い込んで、更に釘で打ちつけて二度と顧みないと決めたものが、今になって違うものだったかもしれないといわれても、封を解いてもう一度やり直そうと思うほど中にあるものに価値があるとは思えなかった。
 価値なんて無い方が良い。閉じ込めていた時間の長さを計ってそう思う。
「ありがとな」
「はい……?」
 自分がどこかで言葉を取りこぼしてしまったのかと思った。それほど、その言葉は前後を無視したものだった。
「なんです?」
「隆也と元希が一緒に来てくれて、嬉しかった」
 穏やかな視線を真正面から受け止める。視界の遠くぼやけたところで榛名が中学生とじゃれているのが目に入る。
「お前達が一緒にいるところはもう見れないかと思ってたから。――隆也、」
 穏やかさが一変して切実な響きを持つ。水平に近い位置にある太陽が投げ出した最後の光を受けて、横顔が赤く染まる。
「元希と組んで後悔してるか?」
当たり前だ。 
出会いたくもなかったです、監督。
 あの頃も、そして今も、榛名の立つマウンドの光景を思うと、胸の底は焦げていくような痛みをもつ。公式戦のマウンドでチームを裏切った背中はいまでも鮮やかな輪郭で瞼の裏に棲んでいて、榛名は蔑むべきエースだったと、許す必要はないのだと教えている。なのに、
「――いいえ」
 こわばっていた監督の顔が許しを与えられた者のようにほっと緩んで、なら良かった、と呟く瞬間まで、阿部は自分の口から否定の言葉が滑り降りたことに気が付かなかった。