Marionette Fantasia
3.舞い散る風
ヒヨノが完成してから、数日が経過した。二人きりの生活をカノンはもちろんのこと、ヒヨノも楽しんでいた。
「あ、いたいた。」
カノンは屋敷内をあちこち回り、ようやくヒヨノを洗濯部屋で捕まえることができた。
「私に何か御用ですか?」
ヒヨノは洗濯機から洗濯カゴへと洗い終わった服やタオルを移していたが、カノンがやってきたのでその手を止めてカノンと向き合った。
「うん。今日はこんなに天気も良いから、散歩でもしないかなと思って。」
「はい、良いですね。でもこれだけは干してしまいたいので少し待っていていただけますか。」
「分かった。じゃあここで待ってるね。」
ヒヨノは大きな洗濯カゴを抱えると、庭の方へとパタパタ駆けていった。
洗濯ぐらい、当然カノンは自分で出来る。実際ヒヨノが出来るまでは自分で家事をこなしていたのだから。でも今はヒヨノが何か仕事をさせて欲しいというので、その言葉に甘えてお願いしている。そして、ヒヨノは洗濯以外の家事も見事にやってくれていた。
カノンにはそんな意図は全く無かったのだけれど、まるでメイドを一人雇ったかのような生活になっていた。
「おまたせしました。」
「早かったね。」
「カノンと早く散歩に行きたくて、頑張りましたから。」
にこりと笑って言ったヒヨノの言葉に偽りは感じられず、カノンはドキリとさせられた。
「じゃあ、行こうか。」
「はい。」
外に出ると、温かい日差しが二人を出迎えた。時折心地のよい風が吹き、絶好の散歩日和である。道端には色とりどりの花が咲き乱れていて、とてもきれいだ。
ヒヨノがとある花のところへ駆け寄った。
「この花、この間図鑑で見ましたよ。名前はえっと…スズランでしたよね?」
「うん、そうだよ。よく覚えていたね。」
「ええ。とても可愛らしい花でしたので。あ、カノン!あっちにもいっぱい咲いてます!」
ヒヨノはそう言って、スズランがより沢山咲く方へと駆け出した。そんなヒヨノをカノンは我が子を見るような優しい瞳で見つめている。
ヒヨノの学習能力はすさまじいものだった。本を読むことが好きで、沢山の知識を備えていっていた。そしてこうやって自分の知識と実物を照らし合わせるのが楽しくてしょうがないようだった。これまでにも何回か散歩をしていたが、そのたびに自分の知らないものを見つけると決まってカノンに聞いていた。
「どうかしたの?」
先に駆けていったヒヨノがある草むらの前で立ち尽くしていた。ヒヨノの視線の先を追いかけると、そこには沢山傷ついた小鳥の死骸があった。
「この子はもう治りませんか?」
ヒヨノは訴えるような眼でカノンを見たが、カノンには首を横に振る事しかできなかった。
「そう…ですか。」
「でも、お墓を作ってあげる事はできるよ。ちゃんと埋めてあげよう。」
カノンの言葉にヒヨノはこくりと小さく頷いた。
二人で小鳥のためのお墓を作った。穴を掘りその中を花びらで敷き詰め、そっと小鳥をのせてやった。それから土をかぶせてヒヨノがさっき見つけたスズランを置いた。
カノンが手を合わせるのを真似て、ヒヨノも手を合わせた。辺りは薄暗くなり始めていた。
作品名:Marionette Fantasia 作家名:桃瀬美明