二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Marionette Fantasia

INDEX|4ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

4.予言の時



「カノン君、どういうこと?ちゃんと説明してよ。」
 カノンは今、自分の屋敷の玄関で、幼なじみかつ研究所の同僚、竹内理緒に言い迫られていた。二人の横には、状況がつかめずにきょとんとした表情のヒヨノが立っている。カノンが恐れていた事が現実の事になってしまった。ヒヨノの存在が他人にばれてしまったのだ。
 突然の来訪者。ヒヨノが完成してから一度もこの屋敷を訪れる者はおらず、すっかり気を抜いてしまっていた。ヒヨノが玄関の掃除をしていたところに、ちょうど理緒が訪れた。理緒とカノンは幼なじみで、理緒は他の者に比べるとよくこの屋敷を出入りしていた。それで理緒がいつもの通り入ってきたら、ヒヨノと鉢合わせしたというわけだ。
 こうなってしまっては覚悟を決めるしかない。どう言い繕ったって、ヒヨノの存在を見られてしまったのだから。
「全部、全部ちゃんと説明するから中に入って。ヒヨノはちょっと書斎にいてくれるかな?」
「はい、分かりました。用事があったらまた呼んでくださいね。」
 ヒヨノはカノンの言葉に素直に従い、書斎へと入っていった。
「…名前、「ひよの」っていうの?」
「うん、まあね。立ち話もなんだし、というか多分全部話すと長くなるから場所を変えよう。」
 カノンは理緒を客間へと招き入れた。
「ちょっとだけ待ってて。紅茶を入れるから。」
 カノンはキッチンでティーポットとティーカップをてきぱきと準備すると、すぐに客間へと戻ってきた。理緒は壁にかけられた一枚の大きく引き伸ばされた花の写真を見ていた。
「これ、まだ私達が学校に通っていた頃に、アイズ君とかみんなで出かけたときに取った写真だよね?」
「うん、なつかしいね。もう五年位前になっちゃうのかな。はい、紅茶入ったよ。」
 カノンが先にソファに腰掛け、理緒はその向かいに掛けた。これから話される内容を考えると自然に体が硬くなる。カノンは紅茶を一口飲んでから、話し始めた。
「さて。全部を説明すると言ったけれど、どこから話せばいいのかな。まず、僕がひよのさんに想いを寄せている事は知ってる?」
「うん。そんなのだいぶ前から知ってるよ。」
 その言葉にカノンは苦笑を浮かべずにはいられなかった。隠していたつもりの気持ちが全く隠れていなかったのだから。けれど、理緒にとってはカノンが誰を好きだかなんて知っていて当然の事だった。本当は知りたくなんて無かったけれど、いつもカノンを見ていれば嫌でも気づかされてしまった。
「でも別に僕はひよのさんを歩君から奪いたいわけじゃないよ。あの二人はとてもお似合いだと思ってるしね。だけど、やっぱり彼女に僕の方を向いてほしいっていう気持ちも消せなかった。それで彼女に似せたアンドロイド、「ヒヨノ」を作ったんだ。」
 理緒は何も言えなかった。カノンのやり場の無い想いが理解できたからだ。そして、自分の入る隙間なんて微塵も無いことを、改めて突きつけられたことがショックでもあった。
「初めはものすごく迷ったけれど…今はヒヨノを作って良かったと心から思っている。彼女と暮らすようになってから、今まで以上に毎日が楽しいんだ。」
「…カノン君、ずっと休んでるから高熱でうなされてるんじゃないかって心配になって、今日来たんだよ。そうしたらひよのさんにそっくりなあの子に出迎えられて、ものすごくびっくりしたんだから。」
「心配かけてごめん。わざわざ来てくれて有り難う。」
「それで、いつ頃から作り始めたの?」
 他にも聞きたいことはあったけれど、理緒が何とか聞けたのはそんな事くらいだった。
「四年位前からかな。構想自体は、ひよのさんと出会って数ヶ月経った頃からあったんだけど。いくら僕が工学に強いと言っても、当然一体のアンドロイドを作るには知識が全然足りなかった。…白状してしまうと、僕が鳴海研究所に入所しようと思ったのも、ヒヨノを作るためだったんだ。僕の弱いシステム関係の知識を補えると思ったから。案の定、外形は割と楽に出来たんだけど、中のシステムがなかなか上手く作動してくれなかった。だからヒヨノの見た目が今のひよのさんじゃないんだ。」
 記憶を探りながら理緒の質問に答えるカノンも、それは幸せそうだった。何度も上手くいかなかったことも今では笑って話せるほど、今の生活が楽しいということだ。また理緒は何も言えなくなってしまった。
 長い沈黙の後、理緒は突然立ち上がった。
「じゃあ、カノン君の元気な姿も見たことだし、私帰るね。」
 暗い気持ちを振り払うかのように、明るい声で理緒は言った。
「あ、それなら帰る前にヒヨノに挨拶…」
「ごめんカノン君。私、まだあの子の存在を認められないの。挨拶はまた今度にしてくれる?」
 理緒は笑顔を心がけていたが、それは今にも泣き出してしまいそうな弱々しいものであった。その表情に、今度はカノンが何も言えなくなる。
「それじゃ、またね。」
 理緒はひらひらと手を振ると客間から出て行った。少ししてから玄関の扉の閉まる音が聞えた。



作品名:Marionette Fantasia 作家名:桃瀬美明