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雨に似ている

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≪『ロゴス』の奴らは……僕達を一体どうするつもりなのでしょうか……≫


それは、イザークとてずっと心にわだかまっていた疑問であり、彼自身が恐れていることだ。だが、図星をつかれて腹ただしくなったからと言って、八つ当たりで具合の悪いニコルを殴るのは卑怯者のする事。
振り上げた拳を下ろし、ぽんと彼の肩に手を乗せる。


「俺の父が……『エンディミオンの鷹』部隊長ムウ・ラ・フラガがついてる。俺達は大丈夫だ……」


まるで自分に言い聞かせるように囁く。
ニコルはシーツをぎゅっと握り締め、大きく息を吐いた。


「……弱気になってすいません。イザークだって、不安なのは同じなのに……」
「……気にするな……」
「後悔はしてないつもりだった……でも、……いざとなると……」


それも、同じ気持ちだった。




★☆★☆★




母の形見となったコインの意匠は一輪の大きな薔薇に、その中央にナイフが串刺されたものだった。
海に辿りついたイザーク達は、その模様と同じ紋章の旗を掲げている船を探した。
それは直ぐに見つかった。
なんとイザークやニコルでも知っていた、有名な商船団に掲げられていたのだ。


港にはその商船に属する船が六隻もあり、彼らは一番規模の小さい……、それでも港に寄港した船の中ではひときわ大きな部類の帆船に行き、船乗りの一人にコインを見せ、自分のフル・ネームを名乗った。


「船長!! 『エンディミオンの鷹』の隊長のご子息です!!」


なのに、二人は難民さながらのみすぼらしい身なりだったのにも関わらず、船で一番良い貴賓室に通されたのだ。

今まで、イザークは父の稼業をただの傭兵だと聞かされていた。
盗賊くずれの猛者を束ね、大規模な傭兵部隊を率いており、依頼されればどの国にもつき、どの戦にも勇猛に戦う主持たぬ孤高の武人だと。

だがそれは表の顔で、本当は大陸全土に恐れられている暗殺ギルド『ロゴス』の一員。しかも七人しかいない長のうち、『鷹』だったとは!!

その後イザークは、数々のカルチャーショックを受けるのだ。

暗殺者という裏稼業に身を置くものが、巨大な貿易船で世界各国を飛びまわっている者達のさらに上部に位置されている。そして、その身内というだけで、貴族に勝るとも劣らぬ扱いを受けるなんて。

しかも船はすぐに子供をムウの元に届ける為だけに出航した。
二人はこの船で最高のもてなしを受けつつ、船長から故郷を襲った悲劇の全貌を知ったのだ。


イザークの母、エザリアの荘園もあったマイウスという地には、国有数の金山があった。
所が、その地を治めていた領主が急死したため、領地内でも一番の収入源だった金鉱をめぐり、親族らが跡目争いを始めたのだ。
当然、この地は真っ先に利権を巡る戦場となった。


「そんな……そんな理由で!!」

領民を守るはずの支配者階級らの手によって、それも彼らの都合、勝手な欲望に巻き込まれたせいで、母は殺され、街は燃えた。

イザークとニコルが長いことさすらい、やっとの思いで海に出てきた間に、壊滅した筈のマイウスには、もう新たな領主の政策により、各地から移民が集められ、街は再建されつつあるという。

住んでいた荘園もまた、ジュール公爵本家から人が遣わされ、エザリアもイザークのことも捜索一つ行われず、館もなにもかも取り壊されたという。
これも、怒りに拍車をかけた。


「ちくしょう!! 領民は、荘園主は、何時でも取り替えの利く虫けらなのか!!」


許せなかった。
絶対に許すことなどできなかった。


2週間の航海の後、帆船は隣国オーブのとある港に辿りついた。
イザークの父ムウは、その港を所有するセイラン家の居城に滞在しており、そこで彼は太守ユウマ自身の歓待を受けていた。

貴族どころか王族までもが、父に対して怯え、情けを請う。
それを目の当たりにした幼いイザークに、最早迷いはなかった。


「父上。俺も父上のようになりたい。『ロゴス』の一員になりたい!!」


もう、虫けらのように扱われ、生きるのはごめんだ。
あの屈辱、憎しみに比べたら、人を殺しても、誇り高く生きた方がマシだった。


(いつか必ず……、母上を殺し、街を焼いた奴らに復讐してやる!! 誓って皆殺しにしてやる!!)


★☆★☆★


二人が殺しの技術を会得するのに三年。下っ端の仕事を一年。簡単依頼を一年。
確実に実力をつけた二人に、ある日チャンスは巡ってきた。


『ライトナー公の暗殺』
それこそ、現マイウスの領主だった。

★☆★☆★


「どうかこの子だけは!!」

乳飲み子を抱き、哀願する乳母らしき女を、イザークは笑いながら二人纏めて一刀両断した。逃げ惑う女官や文官も次々に切り殺す。

首とともに血飛沫が飛ぶ。
他人の返り血が体にかかるごとに、己の血がふつふつと滾ってくる。

燭台を剣で殴り倒し、カーテンに次々と火をかけた。
むせ返るほどの血の匂い。人肉の焼ける匂い。


炎に包まれた領主の城で、イザークはニコルと二人で高らかに哄笑した。
(燃えるがいい……マイウスのように、全て燃えてしまえ!!)


「イザーク!! ニコル!! 命令違反だ!!」
「止めたけりゃ殺せ!!」
「そうですよ!! 僕たちはこの日の為に生きてきたんだ!!」

城中の人間を皆殺しにした二人は、まだ足りぬと血刀を振り回して城下に向かう。だが、仮面をつけた楽師の長とその配下の者に、いとも簡単に取り押さえられる。

捕まった彼らは、すぐに本部の処刑場に連行された。
契約を違える代償は死。これは『ロゴス』の絶対の掟だ。


だが、二人は満足だった。


ライトナー公の居城は焼け落ちたし、一族郎党も全て殺せた。
だから自分達はもう、いつ死んでも良いとまで思っていた。


けれど牢に放り込まれたまま十日も経てば、頭に上った血も興奮も冷めるし、気持ちも落ち着いてくる。

そして毎日響く断末魔の声と、狂気に蝕まれた囚人たちの笑い声。

二人のいる鉄格子の向こうを、処刑される者が連行されていくのを見るたび、イザークとニコルは不安と恐怖に慄いた。自分達が殺される番が来ることに怯える日々。それも遠くない未来に確実に終わりは来る筈だ。

生きたかった。
もっともっと生きたかった。
二人はまだ17歳と16歳。死ぬには早すぎる年齢なのに。



それから二週間後、彼らの牢の錠が外された。
処刑執行人にいよいよ引き出されるのだと身構える二人は、信じられない面持ちで来訪者を見上げた。
牢獄の鍵を開けたのはムウだった。
彼は二人を牢から出すと、ぎゅっと覆い被さるようにし、二人纏めて力強く抱きしめてくれた。


「いいか。体を鍛え、気を強く持って息災で暮らんだぞ。俺は必ずお前達を迎えに行く。必ず助けてやるから」


普段は陽気で饒舌な父が、真顔で噛みしめるように言葉を綴るのを聞いても、二人は信じられず、唖然と突っ立っていた。

今までこの処刑場に送り込まれた者で、帰還したものは誰一人としていない。
ムウがロゴス本部とどのような交渉をしたのかは知らない。
作品名:雨に似ている 作家名:みかる