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雨に似ている

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キラは、激昂したイザークを安心させようとして、あわあわと言葉を綴る。

「ウズミも王妃さまもオーブの民も、きっと僕の事は必要だと思うの。だって、僕の双子の姉に縁談が来たんだけれど、カガリは跡取りの王女だから国から出せなくて。でも国が戦争になっちゃったら困るから僕が…、政略結婚で第二王女が嫁ぐことになったから」

(結婚? こいつに結婚相手なんていたのか!!)

イザークの頭に、更に血が上る。

「貴様!!そいつに会ったことはあるのか!!」
「……う〜ん、ない……」
「なんだそれは!!」

鈍い彼女は言葉を紡げば紡ぐ程、どんどんイザークの怒りを煽っていることに、全く気付いていなかった。

「で……でもね、……ウズミさまと王妃さまが決めたことなんだから……きっといい人だと……思うよ」
「憶測で物を言うな!!」
「あ…あぅ……、えっと、じゃ、『いい人だといいね〜♪』」
「………馬鹿者!!……」

イザークはテーブルを殴りつけた。

「お前の父や母は、おまえの修道院に、一度でも来たことがあったのか!!」
「う……うう、ウズミさまは僕のこと知らなかったし、王妃様も僕が何処にいるかわからなかったし……」

「だが探せたのだろう。カガリ王女の代わりにとお前を思い出して宮廷に呼びもどしたのだろう? やろうと思えばいつだって迎えは寄越せた筈だ!!」

「うううう、でも、今は会えたからいいじゃない〜!!」
「貴様はやっぱり馬鹿だ!!」


イザークは、怒り心頭に達し、テーブルを蹴りたくって倒した。


「ひゃう!!………ああああ!!……僕のごは〜ん!! 酷い〜!!」


彼女は床に這いつくばって、散らばったパイとサラダを恨めしそうにかき集めた。美しい紫水晶のような大きな瞳に、うっすらと涙が滲み出しているが、きっとイザークの言葉に傷ついたわけでは無く、腹に入らなかった食事を惜しんでのことだろう。

その姿にますます力が抜ける。

イザークはもうあきれ果て、どっかりと椅子に腰を下ろして頭を抱えた。


「俺にはお前がわからない。お前は腹が立たないのか?
親の都合で捨てられ、今度は身勝手にも会ったこともない男に嫁がされるんだぞ。大体こんな結婚が決まったから、お前はのこのこ修道院から出てきて、『ロゴス』の人間に捕まったんだろ。
何故怒らない? どうして自分の運命を呪わない? 父母を恨まない? お前には、自分の意志がないのか!!」


ぐしゃぐしゃと左手で髪を掻きまわしていくうちに、自分の腹もいらただしさにふつふつ滾っていくのがわかる。

突然、キラの優しい手が、ぽしっと彼の髪をゆっくりと撫でた。
顔を上げると、自分を見おろす彼女は、幸せそうに微笑んでいる。

「……貴様、何をへらへら笑っている?……」
「えへへ。イザークが、僕の為に怒ってくれるのが嬉しいんだ。幸せだな〜って♪」

高揚していた気分が、また一気に盛り下がる。
全く話にならないとはこのことを言う。
だが、話しても無駄だとは思うけれど、これだけは言わずにはいられない。

「貴様は生きてて楽しいか? 
人に、自分の人生全部を都合良いように利用され、……貴様は一体何のために生きている? あまりにも寂しすぎると思わないのか!!」

キラは、やはり幸せそうに微笑みながら中腰になると、ぎゅっと包み込むようにイザークを抱きしめてきた。ふくよかで暖かな胸が丁度彼の頭に当たる。
女性のぬくもりに、自然頬が赤く染まっていく。

「馴れ馴れしく触るな!!」
「イザークは、本当に優しい子だよね」
「貴様!! 何を馬鹿なことを!!」

この5年間で殺した人間は軽く3桁に届くし、欲望のまま犯した女も数えきれない程だ。
それなのに子供扱いなんて……!!

「ふざけるなキラ。いい加減に、舐めた真似は止めろ。俺は気に食わない奴なら殺すぞ。ライトナー公爵の一族がどうなったか……お前は知っているのだろ?」
「うん。君は大切な家族を殺した人達が許せなかったのでしょう?」


「―――――――――!!―――――――――貴様、本当に俺の話を聞いていたのか――――――!!――――――――――!!」


キラは、絶叫し、力尽きて硬直したイザークに構わず、ぽしぽしと彼の頭を撫で続けてくれる。
彼女の暖かく、柔らかな腕に抱かれている内に、何故か目尻から涙が滲んできた。



(――――母上―――――)



エザリアはジュール公爵家の跡取り姫だったにもかかわらず、ムウという傭兵と身分違いの恋をした。その結果、定められていた王族の婚約者との結婚を疎み、約束された未来全てを捨てて家から飛び出した。

実家から勘当された彼女は、祖父から受け継いだ遺産の荘園に移り住み、女手一つでつつましくイザークを育ててくれた。
夫のムウは決まった主君を持たない特殊な家業だったから、当然表立って結婚できる筈もなく、母は一人で領地を切り盛りしていた。

言い寄る男を片っ端から袖にし、キラのように短く髪を切り、男装し、でも一人っ子で父が年に一〜三回しか家に戻らないにもかかわらず、イザークは寂しい思いをしたことはなかった。

母親の愛情は彼が独り占めしていた。
彼女は本当にイザークを溺愛してくれたのだ。


「母上が死んだのは……俺のせいだ……」
無意識の内、呟いた言葉にイザークは愕然とした。

ずっと、心に蟠っていたこと。
重く、もやもやしていた感情を、開けるのを躊躇い封印していた疑問が、自身の口からほとばしる。

「母上は俺に、父上の仕事内容を決して教えてくれなかった。あの人はずっと、小さな鄙びた荘園でひっそりと………、俺を……、女手一つで育ててくれて……」


≪……ムウ……もう一度……会いたかった……≫


断末魔の痙攣前、彼女が最期に会いたいと望んだのは父だった。
それ程会いたかったのに。
なのに、彼女はムウと離れて暮らしていた。

「『ロゴス』にくれば、遊撃部隊『エンディミオンの鷹』の隊長夫人として、望みうる全ての豪奢な生活が保証されていたのに!! 母上をないがしろにし、家督を奪ったジュール本家のやつらだって実力で見返してやれた。

なのに母上は、俺を父上と同じ職につかせたくなかった。だから、父上と離れて暮らしていた。父上と一緒にいれさえすれば、決して死ぬことは無かったのに。身分も栄光も全てを捨てて得た恋なのに、そのたった一つの恋を諦めて、俺に尽くしてくれた母上なのに。……ずっと、死ぬ間際まで、父上に会いたがってたくせに!!

母上だって馬鹿だ!!

『ロゴス』にいれば………虫けらのように知らない奴に射殺されることだってなかった!!……俺だって結局は暗殺者になった、……母上は自分の恋を犠牲にしたのに、結局無駄死にではないか!!
貴様も一緒だ。一体なんの為に生まれてきたんだ!!……」

「イザークは、暗殺者になったことを後悔しているの?」
勿論否だ。彼はふるふるかぶりを振った。

「俺は俺の犠牲になってくれた母上を、殺した奴らが許せなかった。絶対復讐を遂げたかった。後悔なんてしてない。マイウスを焼いた奴らを皆殺しにしたかった。そうさ……、俺は願いを叶えたんだ……」
作品名:雨に似ている 作家名:みかる