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もう君が居ない

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昼間の街はまた夜とは違う。
俺は新鮮な気持ちでふらふらと歩く。
寒くはなったが今日は良い天気だ。日光が体調の悪い俺をビシビシと攻撃している。
なかなか日に焼けない自分の肌、日に焼けたいとも思わないけど。
色黒の自分はどんなだろうか、と想像しようとしても上手くいかなかった。
欲しい物は特に無い。それでも何か欲しくって俺は無意味に店を覗きまくる。
店員さんは愛想笑いを浮かべて、俺に声をかけてくる。
俺も愛想笑いを浮かべて対応した。
「何をお探しですか?」
「いえ、特に。」
「まぁ、今日は見るだけですか?」
「そのつもりです。」
買う気は無いよ、とはっきり言ってるのに相変わらず愛想笑いを浮かべている。
こういうところ、接客業は厄介だ。
目に見えて怒って絡んできてしまいには泣いて許しを乞いた昨夜の3人組のがよっぽどわかりやすい。
「ごゆっくりどうぞ。」
最後まで笑みを崩さない、その店員は内心どんなことを考えているのだろうか?

息苦しかった店を出た。
俺はすーっと息を吸ったが、外もやっぱり息苦しい。
俺はそこで初めて息苦しいのは店でもなく、外でもなく自分に原因があることに気が付く。
植え込みに座り込んでしまってから、失敗したな、と、思う。
座ったら最後、立ち上がれなくなった。
地面が妙にグラグラと揺れていて、なんで道行く奴らは平気で歩けるんだ、と忌々しくなる。
グラグラしてるのは自分だ。わかってても嫌になる。
目を閉じた。世界は一瞬で真っ暗になり俺は少し落ち着く。
息は相変わらず苦しいが、世界が揺れるのは少し収まった。
問題無い、平気なフリして此処で少し休めば大丈夫だ。

「だいじょうぶ?」
『大丈夫ですか?』
今実際に聞こえた声と、前に聞いたことある言葉が重なって俺はハッとして目を開けた。
髪を二つに縛った少女がしゃがみ込んで座る俺の顔を覗きこんでいた。
クリクリとした目が揺れている。
「…。」
「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」
『臨也さん、大丈夫ですか?』
また声が重なる。
「…大丈夫。」
そう答えた俺を信用してないのか、その少女は「これあげる。」と、俺にペットボトルのお茶をくれた。
「マナが飲もうと思って買ったけど、お兄ちゃんにあげる。」
俺は無言でそれを受け取る。
マナ、という少女はそれで満足したのか「バイバイ。」と言って走って行ってしまった。
ペットボトルを開けて、一口飲んだ。
生ぬるいお茶はお世辞にも美味しいとは思えなかったが、世界は揺れるのを止めた。
『大丈夫ですか?』
耳の奥でまた声が聞こえた。
「…大丈夫。」
俺は独りで呟いていた。

また夜が来る。
俺が大好きで大嫌いな夜が。
結局何も食べてはいないが、酒だけは飲んだ。
気分が良い、今なら空も飛べる気がする。
夜の街はヘタしたら昼間よりも活気がある。
きっと昼間にあったあの少女はもう居ないだろうけど、俺は貰ったペットボトルのお茶を片手に持って街へ繰り出した。
時間にしたらまだ7時、日が落ちるのは早くなった。
暗い中を高校生たちが家へと急ぐ姿が見える。
「…っ!」
薄暗い路地のほうで、人の声が聞こえた。
俺はワクワクしてそちらへ向かう。人が少ない汚いその道は俺にとっては宝箱のようだ。
毎回たいていそこでは面白いことが起こっている。
今回は、どうやら高校生が柄の悪い方々に目を付けられてしまったようだ。
可哀想にね、と、俺は見ていた。
誰も助けてくれない世の中を恨み、君もまた誰も助けない大人に成長するのだろう。
もう歯向かう気力どころか、意識もほとんど無いのだろう。
鞄の中身をぶちまけられ、財布を盗られた。
その男子高校生は泣いている。自分の弱さに?世の中の不条理に?
「止めろよ!」
物影に隠れて見ていた俺の前をすごいスピードで駆け抜けていった。
殴られ、財布を盗られた高校生と同じ制服を着ている、その人物は肩で息をしていた。
お友達、ってやつかな?
アハハなんて馬鹿なお友達なんだろう。

案の定汚い道に転がる高校生は二人に増えた。
柄の悪い奴らが手にした財布も二つに増えた。
救われない、全くもって救われないねぇ、残念だけど。
でも、
「ごめん、俺のせいでお前まで…。」
「バカ、俺こそ格好悪ぃよな、こんな…。」
二人は二人して涙の跡を残したままお互いに肩を貸しあって歩く。
周りのスーツを着たサラリーマンたちは明らかに暴行を受けた彼らを見て見ぬふりをしている。
でも、その男子高校生たちは笑っていた。
イラッとする。救われたものがあってたまるもんか。
俺はその苛立ちをペットボトルのお茶に込めてえいっと投げた。
それはゴツッと鈍い音を立てて、男子高校生の財布を二つ持った柄の悪いお兄さんの頭を直撃した。
「あ、すみません。大丈夫ですか?」
俺はにっこりと笑った。

「あ、ありがとうございます。」
男子高校生たちは俺にそう言った。
「…どーいたしまして。」
俺は無表情でそう言って、財布を渡す。
大した金も入って無い、たかが高校生の財布だ。欲しくも無い。
今日はツいてない日なんだろう、きっと。
わけのわからない茶番劇を見せられて、楽しかった気分はそがれた。
泣きっ面に蜂のように、この男子高校生の方へ八つ当たりしようと思っていたが止めた。
もしくは財布が戻ってきたと喜ばせといて、突き落とそうかと思っていた
が、それも止めた。
『大丈夫ですか?』
また耳の奥で君が喋る。

大丈夫なわけ無いだろう、こんな俺。
自分が一番大嫌いなタイプだ。

作品名:もう君が居ない 作家名:阿古屋珠