【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】
目撃情報があったのは、大手の音楽会社の裏手にある駐車場入り口だった。
これが、かつて”エンペラー”のCDを発売した会社であることは、当然のように臨也が把握している。
10年近く前にこの会社と帝人の間に何があったのかまでは、さすがの臨也も知りはしないが、ここに来ることに誰もいい気分はしなかった。
「ここの警備員、ちょっと別件の知り合いでね。頼んだら監視カメラの映像見せてくれるって」
別件て何の、と言いたくはなるが、こういうときに便利な情報屋である。こっそりと管理室の勝手口から入り警備員室の奥まで案内されると、体を小さくした警備員の男は俯いたまま慌てて表へと戻って行った。
大人3人がギリギリの狭い部屋に入り込んで、男達はいくつも並ぶモニターを覗き込んだ。
目撃情報があった数時間前の駐車場の映像、確かにそこに、白い服を着た少年らしき姿が見えた。その横に、恐らく静雄の弟の幽のものだろう姿も映っていた。
「これか!?」
「遠いし映像が不鮮明だから確証はないね。この時間だと、あの病院から出て1時間後。余裕で歩いてこれる時間だけど」
3人がかりで、監視カメラの映像を食い入るように見つめる。
ほんの少しの間、幽らしい人影と話しをしていた様子だが、すぐに別れて1人駐車場に残っていた。
そのまま動かずに5分ほど経過し、ようやく歩き始める。
「彼、裏口入ったんじゃないの?建物の中の映像ある?」
小柄な体が、コマ割のように撮影される映像の中で、滑るようにそっと裏口へと消えた。
違う映像を引っ張り出し確認する。
しかし、確かに建物の中に入ったのに、目的の姿はなかなか見つけられない。
やがて、静雄の動体視力が見つける、ほんのわずかに腕や服の裾が映る廊下の映像があるものが繋がって、大きな表玄関の受付ではなくその奥の小さなカウンターのようなところにいる姿が見えた。
意図的になのだろう、そのカウンター、いわば隠し受付のようなところは、手前に置かれた大きなオブジェと観葉植物に阻まれ、監視カメラには上手く映り込めなくなっていた。
この手の細工がしてあるということは、別のところにならこの場所が詳細に見えるカメラもあるのかもしれないが、防犯用の監視員室では確認できないようになっているらしい。
カメラからの距離も遠く、ザラザラとした映像でほとんどセピア色に見える奥の方を凝視する。
やがて、植物の間に薄っすらと映りこんでいた白い姿が消えた。焦って巻き戻しボタンを押す。
「おい止めろ!ここ、この男の向こう側!」
「……これ?…う~ん。確かに、いるように見えもするんだけれどねぇ?」
「あれ?この男、見たことある気がする…。どこで」
注意深く消えるタイミングを確認していた3人の前には、1人の小太りとはちょっと言い難いほど大柄な男が映りこんでいる。
静雄が指摘するものの、カメラからはその男の影になっていて、よく見えない。荒い画像の合間にチラチラと白い服の影が見えたように思えないことも無いが、男のシャツか、または何か持っていたと、言われても納得できる。
その男を念のため追ってみたが、やはりその男は映っているものの、白い布らしき影の正体は、妙に上手くカメラを避けていて見当たらない。そこが逆に新羅には引っかかる。
いくら何でも、そこまで映りこまないものだろうか。
しかし監視カメラの死角を辿って歩くなど、カメラの映像を何度も見比べながら行わない限り、無理だ。
だが、その男を抜きに映像を見直しても、カウンターにいたはずの白い小柄な影の行き先は見当たらない。
そもそもそれが、帝人かどうかもわからないのだ。
まだ街を駆けずり回っている方が見つかるのではないか、という不安と衝動が静雄の中を渦巻いてくる。
作品名:【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】 作家名:cou@ついった