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【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】

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10.真っ白なセカイ



眠い。
瞼が重い。

うつらうつらとした意識の中、帝人は思い出していた。

臨也が満足気に笑っていたのを覚えている。
自分の声を出す、ということが全く出来なくなっていて、その理由がさっぱり思いつかない、ということを覚えている。
温かい人の体温にもたれながら、何度もうとうとと睡魔に襲われ、起きてもまたすぐに眠ってしまっていたことを覚えている。

(思い出せないのは、大切なことばかりだ)

帝人はふらつくワケでもないのに、宙に浮いているように安定しない足元を感じながら歩いていた。
臨也の服の端を掴み、彼が手取り足取り自分に出掛ける用意をさせ、どこかに連れ出した。
車に乗り、降りて歩き、そして臨也が誰かと話していて、自分達が立ち止まっていることにさえ、意識してみなければ気付かなかった。

「み、帝人…」

呼ばれたのが自分の名前であることは分かっていて、そちらを振り向く。
そこで、静雄に会った。
珍しく自信なさげに慌てた姿が見えた。

「…っ、あ、あれが、…なんなのか、ずっと、考えてたが…」

その声を途中まで聞いて、臨也が自分の前に立ち、それまでの甘く柔らかな声とは違う、少し苛立った様子で耳を塞ぐように言った。
彼は何か心配しているようだ。帝人は、従順に強く、強く、両手で耳を塞いだ。

静雄と臨也はなおも何かの言い合いをしている様子だったが、ふと耳を塞いでいた片方の手を引かれ、臨也とともに再び歩きはじめる。
自動ドアが開いて、消毒液のこもった病院独特の匂いがした。

「これだけは、教えろ!」

静雄の声は悲痛と願望という感情だ。その音からは感情が漏れている。

「あの時の、あの歌は、帝人なのか!?」

 歌。

「……っ帝人くん、お願い俺の声を聞いて」

 歌、った。

「ここには何もないよ。大丈夫、何も考えないで。ここに君の恐れる音は何も」

耳元で、小さな声が必死に自分を落ち着かせようとする言葉を呟いた。
そんなことはお構いなしに、ざわざわと体の奥がざわめく。
そう、僕は、ウタをウタッタのだ。

「…あ、ああああ……」

だが、壊れていく自分の中で更に別の思考が働き始める。
自分は何でそんなに歌うことが怖いのだろう。
昔、歌は大好きだったように思う。
たくさん歌わされて、大人の人にいろいろと言われて、言われるままに歌って、怖くて。
怖いのは、なぜだった?

次の瞬間、息を大きく吸い込んだ。

「――――――」

怖いのは歌ではない。
怖いのは歌ったことではない。
本当に怖いのは、無理やりに歌わされることと、それを拒否したときに訪れた暴力。
ねっとりとした闇、気持ちの悪い囁き。
黙れ、黙れ、黙れ。
もう、黙って!!!!

(帝人くん)
(帝人!)

後方から呼ばれたようにも思ったが、そんなことはどうだったいい。
恐怖を思い出した。
自分がなすすべのない子供だったことを思い出した。
そして、今はそうではないことを、思い知った。
復讐なんてつまらなくて生産性のない残念な行動だと分かっていたのに、それでも、罪を償わずにのうのうと生きる人間がこの世界に存在し続けることを知っていて、なお放っておくことが更なる罪であるように思えた。
だから僕は歩き出した。
思い出した恐怖と、今持ち合わせている知識を持って。