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【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】

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薄暗い倉庫の中、一方的な暴力が振るわれている喧騒の最中でも、帝人くんが何とか体を起こして、膝立ちになる姿は上からでも良く見えた。
俺は期待に胸を躍らされ、ずっと録音中になっている録音機器を持ち直すと、ゆっくりとそちらに近づき始め、そして数歩で立ち止まった。
それ以上、近づけなかったのだ、この俺が。

最初は本当に小さな声で、それが何かの擦れる音だと言われても納得できるような、微かな響き。
段々とそれが、少しずつ音量を大きくし、耳に入ってくる。
それでもそれが声なのかどうか、目の前で口を開いて歌っている姿を見ているのに、確信を得られなかった。それは何かの楽器であると言われても不思議ではない。
でも楽器でも、声でも有り得ない、音。
音色。
響き。
色の付いた風。
脳に直接与えられる衝撃。
魂に刻み付けられる慟哭。

突き詰めればただの聴覚刺激のはずなのに、瞼の裏にチカチカと光が見えた気がした。
足元が軽くておぼつかない。立っているつもりが、気が付けば膝をついていた。
絡めとられる、全身の感覚。
恐ろしいほどに、鳥肌がたった。

その歌声に乗せられているのは、確かに
『恐怖、悲しみ、無力感、恋しさ、保護欲、庇護欲』
そして紛れも無い、
『愛』

歌詞があるわけではない。何かの言葉のようにも聞こえるが、その内容はさっぱり分からない。
しかしその意味を全身に感じさせるのは、直接感情が歌に乗せて注ぎ込まれているからだろう。
不覚にも、涙が出た。両手も床について、体中から力が抜けて倒れ込んでしまいそうになる。
感情のある音。
これが、
『この世で最も美しい音楽』
『ヴァルハラの歌声』
『音楽の神に祝福された天使』
と絶賛を受けたもの。
でもそんな言葉で語りつくせるようなものだろうか。そんな生半可なものではない、コレは。
使用方法によっては、容易に人を殺すことも、世界を征服することさえ出来る、史上最強の武器だ。

ふいに光が四方から差し込んで、音が止む。
パタリと、帝人くんが崩れ落ちるのが見えた。
この世の天国と化していた空間を引き裂いたのは、どうやら無粋なパトカーのライトだった。
俺はともすれば床についてしまう手と足を無理にでも引きずって、闇に溶け込むように、その場を去った。

そうして、再び彼の前に現れる。
今まであの歌を聴いても、そのジャケットを見ても、絶叫はしたがすぐに落ち着いて、何事もなく記憶すら抜け落ちたように対応していた彼だ。
実際に、自分がもう10年近く封じていた歌うと言う行為をしたことで、彼がどんな反応を見せるのかが楽しみだったのだ。
そうして、こうなった。