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【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】

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俺は人1人分の重みを感じながら、ゆっくりと体を揺らす。
天使はこうして、記憶も言葉も忘れたように俺の腕の中に堕ちて、ひたすらにその瞼を閉じる。
目を開いたって彼は、何も言わずに首を傾げ、俺が差し出す物を飲み、ほんの少し食事をし、また俺の腕の中で眠りに付く。
なぜ彼がこうなったのかも、彼が過去に何と呼ばれていたのかも、あの時何が起きたのかも、俺だけが知っている。他の誰も知らない真実。
えもいわれぬ高揚感が俺を満たした。

俺は、『天使』を手に入れた。

首の無い妖精や、その首だけや、ただ力の強い怪物とは全く違う。
これが俺の望んでいた、死後の世界までの保険なのかもしれない。彼といれば地獄に堕ちるようなことしかして来なかった俺でさえ、きっと天国どころか神の御許まで行けそうだ。
少し前まで神の存在も死後の世界も何も信じていなかった自分を思い出すと笑えた。
俺はこれを、手放せない。

「…ん?起きたの、帝人くん」

ふと、胸にかかっていた重みが浮く。
首を持ち上げた彼は、少しぼんやりと周りの風景を見渡した。
ここは俺の事務所だ。
入院中も、どうやったって俺から離れようとせずにしがみ付く姿に、医者も田中トムも諦めてつれて帰らせた。当然、シズちゃんには知らせずに。
たぶんもうしばらくすれば、聞きつけたあの暴力の塊が奪いにやってくるだろう。
そうして見せ付けてやるのだ。俺の腕の中で安心しきって眠る天使の姿を。起こしても必死に服を掴んで離れようとしない態度を。

「うん?お腹でもすいた?何か用意しようか」

ふるふると頭が振られる。アレ以来、彼の声を聞いてない。本格的に壊れてしまったのか、声を出すことが怖いのかはわからないけれど、小さな吐息ですら聞こえない。
特に聞きたいとも思わないから気にはならなかった。
ようやくあの紀田正臣が持っていた、混乱が安定する居場所、という地位を奪取して得た信頼だ。
最大限の優しさをもって、彼を守り、この関係を守る。その瞳に、俺だけを映して。
俺が望む未来のために。

「もう寝足りたのかな。目が覚めちゃったんだ?」

こくりと、頭が揺れる。
ああ、何て純情で怖い存在を手に入れてしまったんだろうか。こんな生き物、本当にこのあいだまで人間として暮らしていたっけ。もう高校生として過ごしていた彼の姿がかすんで思い出せない。

「…うーん、でももう君が俺の名前も呼んでくれないのはちょっとだけ寂しいかな」

独り呟いて、起き上がった体を抱きしめ、ぎゅっとその肩口に顔を埋めた。
言っている内容はわかっているんだろう。彼はきっと少し悲しげに眉をひそめているはずだ。

「ああ、気にしないでいいよ、今は特にね。それにいつかはまた君と話しが出来るのかもしれないし」

実際は、あの歌、しばらくは聞きたくない。
あんなに心が乱される、全身の感覚が奪われて、宙を舞うような錯覚を受けるものは、そう頻回に体験したいものじゃない。
確かに素晴らしいものだったけれど、前述の通りあれは、一種の生物兵器のようで破壊力のあるものだ。それも精神的な破壊をもたらすもの。
ただそれは甘美な毒のように、魂の一部をいつまでも痺れさせ、中毒を起こす。
きっと遠くない未来、俺はまた彼の歌を聞きたいと飢え望むだろう。

「今は、このままでいたいんだ。君が無事にここに存在していて、俺の中にあることを確認していられればそれで」

きゅうきゅうと抱きしめれば、彼も抱きしめ返してまた頭を俺に預けた。
天使と俺の2人っきりの世界。
ああ、幸せだなあ。