【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】
8.天使の消失
「止めとけ、静雄」
「っ、何でっスか!!何で帝人をあんなノミ虫やろうのトコに、クソ、俺がちゃんと傍に」
「お前じゃ駄目なんだべ、今は」
「それが!わっかんねー!!」
衝撃音が響き、パラパラと砂埃が舞った。
破壊された壁を横目に見、トムは表情には出さずに肝を冷やしながら煙草に火をつける。
「また血ぃ出んぞ」
「俺の怪我なんてもうとっくに治ってます!」
その驚異的な回復スピードに医師など必要なく、彼は精密な検査も最初だけ大人しく受けたが、すぐに苛立って途中で放り出した。
静雄の体は骨折も打撲もすでに完治させていたからだ。
「けど、たぶん竜ヶ峰はまだだろ、だから今は止めとけって」
「俺は!」
「あの惨劇を思い出させたいのか、お前は」
ビクリと、握り締めた拳を振るわせる。
自分の力が完全にコントロール出来なくなっていたのは理解していた。
帝人の肩口に傷から、真っ赤な血が流れ出るのを見た瞬間、理性が焼ききれたみたいに何も考えられず、体が暴走するままに人の体を破壊した記憶も感触も残っている。
それを止める帝人の声が耳に入っていたことすら覚えていた。
でもそれは脳まで届かず、何の制止にもならず、破壊衝動が止むことはなかった。
静雄の拳がダラリと下げられ、肩が落ちる。
あんな惨状、思い出させるものじゃない。人が人を躊躇なく素手で殺していく光景を見せ付けたようなものじゃないか。実際に死者が出ていないというだけで。
あの瞬間、俺は確かに何人か殺したと思った程だったというのに。
「…すんません」
「ま、分かってくれたのなら、教えちゃる」
トムがニっと人好きのする笑顔を浮かべる。
「今日は竜ヶ峰の検査の日のはずだから、病院に来んぞ。あの折原が何かしない限りな」
静雄の垂れ下がった肩が引きあがる。
少しでもいい。無事な姿が見たかった。最後に見たのは、真っ青な顔をしてベッドに横たわる眠り姿だったから。
その足が浮き立つように病院へと向かう。
作品名:【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】 作家名:cou@ついった