別世界へ
お似合いと言われても、とネクは思った。
この少年、リツは相当な変わり者なんだ、とネクの中に刻まれていた。
「だってさお前、音を操って旋律になるんだぜ?
まあよくわかんねぇけどさ。とにかく何か縁あるよ」
「わからないかよ…」
「お、やっと会話っぽいのが成立したな~」
そう言われてネクはえっ、と声を漏らした。
今まではずっとどんな感じで話していただろうか。
リツはネクの小さな驚きも見逃さなかった。
「会話ってなぁキャッチボールだぜ?俺ばっか質問しまくってさ、
お前はそれに答えるだけでよ。
お前はテスト聞いたら答え教えてくれんの?って感じだぜ」
「それはない…っていうか例えがビミョー…」
「ナハハ、そりゃそーだ」
「………」
ネクが半ば呆れていると、リツはホラホラさっさと行こうぜーと階段を降りる。
止まったのはお前だろとツッコミをいれながらネクも階段を降りた。
そしてリツは立ち止まり、両手を広げた。
「ついたぞ、とくと見ろ!ネク!」
ネクはゆっくりと、目の前の壁を見上げた。
「あ………っ」
宇田川の路地裏。
チラシやポスター、ステッカーで埋め尽くされたどんな壁よりも
圧倒的な存在感を放つ、一面のグラフィティ。
今この状況を楽しませてくれるような、圧倒的で、強烈なカリスマを感じさせてくる。
「これ…って……CAT?CATの壁グラ…?」
「ピンポンあったりー。学校帰りに一人でプラプラしてたらさ、見つけちゃった訳よ」
「すごい…」
ネクはCATの壁グラに心を奪われた。何かが足りない…そんなピースの欠けを感じ
させない最高のGraffitiがそこにある。ネクはただ呆然と壁グラを眺めていた。
「ネクもすごいと思うか。俺もすごいと思う。
このグラフィティだけはなんかが違うんだ」
そう言ってリツは壁グラに手を添える。
「この壁グラに触れると、元気がわくんだ。
今を楽しめ、って、CATがいつも言ってるだろ。それを肌で、心で感じるんだ。
だから俺、暇な時も忙しい時も、ここに来るんだ」
「…リツ…は、だからそんなに明るいのか?いつも明るいのか?」
「俺が明るい?いつも?まさか。俺だってマジで腹立つ事がある。
マジで落ちる時もあるよ。だからこそここに来るんだ」
リツはそう言って、壁グラに手を触れて目を瞑った。
ネクもそれを見て壁に触れた。
今を楽しめ。そう聞こえた。