恋した相手は、敵になりました
人形みたいな綺麗な、けれども二年まえよりは男らしさの増した顔に、表情は浮かんでいない。
だが、その眼差しは真っ直ぐで強い。
脳裏によみがえってくる。
過去の光景。
にくまれ口をたたき合って、喧嘩ばかりしていた頃のこと。
よく突っかかっていった。
そして、よく突っかかってこられた。
でも、もし、あれがなかったら。
こちらに気づいても、なにもしてこなかったら。
寂しかっただろう、な。
大嫌いだと思いながら、突っかかってこられることを心の底で期待していた。
こちらからも、突っかかっていった。
たぶん、それは。
内容は喧嘩であれ、くだらないことであれ、話をしたかったから。
ふたりでいたかったから。
私は恋をしていた。
それを、今、認める。
沖田が動いた。
その顔が近づいてくる。
攻撃するつもりでないことはわかっている。
だけど、息苦しくなった。
距離がますます縮まる。
身体の中で心臓が早く激しく鳴っている。
その音が沖田にも聞こえているのではないかと思う。
だって、もう、距離がほとんどない。
すぐそばにいる。
逃げだしたくなる。
けれども、身体は動かない。
本当はこの先にあることがわかっていて、それを望んでいる。
眼を閉じ、息を止めた。
唇にやわらかなものが重ねられたのを感じる。
その感触に、胸の中で心臓が飛び跳ねた。
身体が熱い。
初めてキスをした。
作品名:恋した相手は、敵になりました 作家名:hujio