二年後設定銀桂短編集
「……志村家には近藤がいるな」
「ああ」
降格された近藤は、お妙との結婚を理由に寿退社して、志村家で暮らしている。
だが、結婚は嘘だ。
神聖真選組から円満に離れたように見せかけるための、嘘だ。
江戸から遠く離れた場所に飛ばされる寸前だったのだ。
それを避けるために、近藤は嘘の寿退社をし、土方は仏のトシとなった。
「使えるだろうか」
桂が聞いてきた。
その意味は。
銀時は眼を細める。
「まさか、オメー、ヤツらと連携するつもりか」
どちらも元が付くが、近藤は真選組局長で、土方は副長だ。
そして、桂は指名手配犯だ。
敵同士だ。
桂は静かに見返してきた。
「……銀時、おまえも将棋をしたことがあるだろう。あれは、囲碁とは違い、敵から取った駒を味方として使うことができるんだ」
その口元がわずかにほころんだ。
自陣があり、そして、敵陣がある。
その敵陣にある敵を取って、自陣に入れ、味方として使う。
盤上を動く駒や、この件に関わる者たちの姿が、銀時の頭に浮かんだ。
「だが、ヤツらは将棋の駒じゃねェ」
「それは、たしかにそうだ。だが、真選組は俺を指名手配犯として追う以上は敵だが、近藤勲と土方十四郎という個人になれば敵とは限らん」
桂は攘夷党の党首らしからぬことを平然と口にする。
さらに。
「天人だからといって敵とは限らんのと、同じだ」
そう続けた。
長いつき合いだが、時おり、その発想に驚かされることがある。
「だが、おまえの言うとおり、ヤツらは将棋の駒ではない。確実に味方になるかどうか、わからん。こちら側についたふりをして、俺を神聖真選組に売って始末させてから、神聖真選組を解体させようとするかもしれんな」
桂の頭がいつもより早く回転しているのを、感じる。
「これでも一軍の将だ。簡単に命をとられるわけにはいかぬ。もうしばらく様子を見て、策を練るとするか」
そう言ったあと、桂は眼を伏せた。
なにかを深く考えているようだ。
銀時は桂のほうに身を寄せる。
「おまえの味方の駒の中に、俺も入れておけよ」
「あたりまえだろう」
桂の眼が向けられる。
「かぶき町きっての猛将、坂田将軍」
からかうように言った。
作品名:二年後設定銀桂短編集 作家名:hujio