二年後設定銀桂短編集
甘いのはどっち?
店を出た途端、冷たい風に体温を奪われた。
もう師走だ。
そして、今は深夜だ。
寒くてあたりまえだ。
そう思いながら、桂は道を進む。
しかし、夜の遅い時間であるのにあたりは暗くない。
道の両側には店が建ち並んでいて、明かりがついているところがいくつもある。
けばけばしいほどの色のネオンサインが競い合っている。
かぶき町らしい光景だ。
そして、その道を歩く自分も、かぶき町らしいだろう。
化粧はしたままだ。
コートを羽織っているが、その下は深いスリットの入ったチャイナドレスだ。
かまっ娘倶楽部のエースのヅラ子のままである。
ふと。
桂は前方によく知った者がいるのに気づいた。
向こうも、こちらを見ている。
眼が合う。
視線をそらさずに、近づく。
「なにをしているんだ、銀時」
低い声で問いかけた。
銀時はいつもの格好に、派手な絵柄の入った羽織を着て、さらにマフラーを首に巻いて顎までうずめている。
「あー…」
その眼がそらされた。
決まりの悪そうな表情だ。
「たまたま近くまで来たから、なんとなく、ここで、ボーっと……」
歯切れが悪い。
言い訳の、嘘だからだろう。
「俺の仕事が終わるのを待っていたのか」
「……たまたま来ただけだ」
ボソッと銀時は返事をした。
その眼は、やはり、こちらを見ない。
合鍵を渡してあるので、それを使って開けて、家に入ればいい。
というか、いつもそうしている。
こんなところで待つ必要はないのだ。
それなのに、店の近くで、桂が出てくるのを待っていた。
おそらく、長い時間。
それを認めるのは照れくさいのか。
「鼻が赤いぞ」
桂はからかうように言う。
「寒い中、待っていたからだろう?」
思わず少し笑い、それをごまかすようにふたたび歩きだした。
銀時がついてくる。
地上の明るさのせいで星の見えない灰色の夜空の下、肩を並べて歩く。
作品名:二年後設定銀桂短編集 作家名:hujio