二年後設定銀桂短編集
桂は部屋の中を進む。
しばらくもしないうちに。
「オイ」
銀時が呼びかけてきた。
「ここ、空いてんぞ」
その隣を手のひらで軽く叩いた。
空いているのは一目瞭然。
言われるまでもないことだ。
まあ、そこに座れということなのだろう。
なにか言い返そうかと思ったが、やめておく。
桂は銀時の横に腰をおろした。
さっそく、という感じで、銀時が身を寄せてくる。
その手が身体に触れる。
顔も近い。
「……変な客とかいなかったか」
わざと息がかかるようにしているのではないかと思うほどの近くから、銀時が聞いた。
「変な客」
桂はおうむ返しに言いつつ、店で今日あったことを頭によみがえらせる。
そして。
「ああ、そういえば、真選組のヤツらも来ていたぞ」
思い出したままに、言った。
「真選組? まえにも来てなかったか?」
「前回で俺のことが気に入ったらしい。指名が入った」
桂は軽く笑う。
「もしかして俺の正体がバレたのかとひやりとしたが、アイツら、ぜんぜん気づいてなかったぞ」
まぬけな話だと思った。
二年まえに真選組は神聖真選組と名称をあらため、新しくその頂点に立った沖田の強い指導のもと、江戸で勢力を著しく増している。
真選組の隊士も増加し、今や江戸の大半はその支配下に置かれている。
その真選組に追われる立場の攘夷志士はいっそう苦しくなった。
攘夷党の党員たちの多くは江戸を離れた。
そうするよう、党首である桂がすすめたのだ。
そして、桂は華やかなチャイナドレスを着て、長い前髪で顔の半分近くを隠し、ヅラ子として、かまっ娘倶楽部で働くようになった。
客に指名手配犯の攘夷党党首だとバレたことはない。
作品名:二年後設定銀桂短編集 作家名:hujio