【米英】Give me a chocolate!
しかしこの二人、どうもただの元兄弟(親子)ではないようだ。なら何なのかと云うと、ぶっちゃけた話、恋仲のようなのである。ようだ、というのは幸いにもと云うべきか今のところ確証を得られていないからであるが、フランス曰く、「生徒会の人間なら誰でも薄々感づいている」。さらに云うには、アメリカが彼から独立したのもその辺りが関係しているようなのだと。
それにしてもアメリカの態度はあからさまで、やたらとイギリスを意識しちょっかいを出したりするくせにイギリスが寄れば冷たくあしらう。イギリスが他の人間といるときは面白くなさそうに見ているか、会話に割り込んでくるという始末だ。
イギリスもイギリスで、自由奔放すぎる元弟に手を焼いているようで、注意はするものの結局はいいように振り回されている。だがそれも満更でもなさそうといった具合である。
アメリカは黙ってさえいればそれなりの見目だ。やや自分勝手で強引なところも男らしいと云えば聞こえは悪くなく、彼に気がある女子をセーシェルは少なくとも三人は知っている。彼女たちは今日、彼に愛を告げたのだろうか。
しかし、たとえ誰が告白しようと結果は明らかで、彼はイギリス以外をまるで見ていないのである。そんなアメリカがイギリスからチョコを欲しがるのは当然の流れで、てっきりイギリスもあげていると思っていたのだが。
「眉毛、あげてないって意外ですね。絶対渡しそうなのに」
イギリスのアメリカへの溺愛ぶりを思い返しながらセーシェルは呟いた。フランスはまぁねえと曖昧に笑う。
「あいつら、揃ってツンデレだからねぇ。かたや欲しいのに素直に欲しがれない、かたやあげたいのに簡単にあげられないってか」
「めんどくせーカップルですよね……」
「まったくだ」
はああ、と二人から同時にため息が漏れた。
「……ところで、その会長はどこで油売ってるんです?」
そういえば、とセーシェルは思う。あんなに急いで生徒会室に来たのに、噂の生徒会長の姿がないことを思い出したのだ。注意深く辺りを見回しても、どこかにひそんでいるわけでもなさそうである。そしていまだにこの部屋には、ふたり以外の誰の姿もない。
「会議に遅れそうで慌てて来たのに、私たち以外ものけのカラじゃないですか」
フランスはああとそのとき初めて気づいたように云った。
「あれ、会議は中止って聞いてないか。あいつは校内を見回りというか、取り締まり中」
「え、聞いてませんよ! 何だ、全力疾走して損した……ていうか、取り締まりって何ですか?」
何だか物騒な話だ。朝ならともかく、放課後に何を取り締まるというのだろう。怪訝な顔をしていたようで、フランスは苦笑して補足した。
「いやぁ、バレンタインだからさ、チョコ持って校内をうろうろしてるやつが絶対現れんだろ。規律が乱れるって張り切って出てったよ」
「あー、そういえばうちの学校、バレンタイン禁止令出てましたね。だから今日チョコ渡してる人見なかったんだ。忘れるはずですね」
「いやいや、それはお前が特殊だから」
納得、と頷くセーシェルに、すかさず突っ込みが入る。
「にしたって先生たちも横暴ですよね、チョコくらい認めちゃえばいいのに」
「そうだよなあ、結局みんな、隠れてコソコソ渡してるわけだし?」
職員会議で決まったという今回のバレンタイン禁止令は各国によって違うバレンタイン事情を考慮してとのことらしいが、それこそ余計なお世話というものだろう。しかしそれでようやく謎が解けた。
「あー、でもそれじゃ、アメリカさんも受け取れないわけっすね。会長みずから破るわけにいかねーですもんね」
「ま、そゆこと。渡したくても立場上も難しいんだな。見回りやけに張り切ってんのも、その鬱憤晴らしもあんだろ」
あいつもひねくれてるからねえ、とフランスはこぼす。
「お兄さんとしては、会長さんにはこれを期に野暮な規則はなくすように働きかけて欲しいんだけどなあ」
「賛成ですね。まぁ、正直バレンタインはどうでも良いんですけど」
「そう云うなって。……そうだな、しょうがないから、今日のところは俺たちが買って出てあげますか」
「何を?」
フランスの云いだしそうなことだ、なんとなく予想がついたものの、セーシェルは尋ねてみる。
そして期待を外さず、「愛のキューピッド役」とのたまったその顔はとても天使とは思えなかったが、口に出すのはとりあえず控えておいた。
作品名:【米英】Give me a chocolate! 作家名:逢坂@プロフにお知らせ