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【米英】Give me a chocolate!

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 セーシェルはフランスを肘で突いた。小声で文句を云うと、フランスは悪びれもしない顔で返す。
「だってえ、コイツ生意気でついいじりたくなんだもん」
「もん、じゃないですよ! 意地悪してどうすんですかっ」
 アメリカさん落ち込んじゃったじゃないですか、とセーシェルが説教をしかけたところで、フランスは突如として何かひらめいたようにあごに手を当てた。
「あー、そっか。だからこれが判断根拠なわけか」
「えっ?」
 またもクエスチョンマークが頭の上を点滅するセーシェルである。判断根拠とはどういうことか、目線で説明を求める。指先でその自慢の無精ひげを撫でながらフランスは云った。
「今日はバレンタインデーだ。恋人たちの愛の記念日ってやつだ」
「それで?」
 聞くとフランスはアメリカの方に向き直って続けた。
「お前が欲しがれば、まず間違いなくイギリスはくれる。だけどそれじゃ意味がないわけだ、あいつが自分から渡さないことには。……イギリスにとってのおまえは、家族か、恋人か。その判断がチョコレートひとつではっきりする」
「あぁ、なるほど!」
「だからくれとも云えないけど、欲しいものは欲しいからあんなとこに突っ立ってた。……ま、お前の考えはそんなところじゃないの?」
「うるさいな……」
 またも当たりだったらしい、アメリカはそう答えるのが精いっぱいのようだ。セーシェルはしみじみと思った。
「アメリカさん、本当に、眉……会長のことが好きなんですねえ」
 フランスは苦笑混じりに云う。
「あんなんのどこがいいのかねえ。お兄さんにはまったく分かりかねるけど、まぁ人の趣味はそれぞれだしな」
「何とかしてあげましょうよ! そのために呼んだんですよね?」
 すると彼はぽりぽりとあごを掻いた。しかもなんだか目が泳いでいる。
「えー、ああ、そうだなぁ」
「フランスさん? まさかめんどくさくなったとか云わないですよね?」
 ぎくっ。まさにそう表現出来そうな反応をフランスは返したが、一瞬後、やけにさわやかな笑顔を浮かべてセーシェルを見つめてきた。
「セーシェル、お兄さんがそんなこと云うわけないだろ。……まぁそこでだ、お前を呼んだのは他でもない。悩める青年に素晴らしい作戦を授けてやろうと思ってね」
 向かいで膝を抱えそうになっていた悩める青年は、振り向くとそれは胡散臭そうな顔でフランスを見た。
「作戦? そんなの俺には……」
「必要ないってか。じゃあ聞くが、お前はそこで待ち伏せて何しようとしてたわけ? イギリス来たらそれとなく近寄って物欲しそうにするつもりだった?」
「そんな格好悪いことしないよ。俺はただ……」
 否定したものの、続きを云いよどむ。
「ただ、何よ」
「……渡しづらいなら、こっちから出向いてやろうと思っただけさ」
 セーシェルは即座に口を挟んでいた。
「それ、同じことですよね?」
「!」
「セーシェル良く云った。ダメダメ、あのツンデレにそんな中途半端なことしたってくれるわけないだろ」
「ならどうすりゃいいんだい」
 とっさに聞いてしまったらしいアメリカは、すぐにはっとして口を閉じたが、時既に遅し。フランスはしてやったりという風に笑った。
「おっ、お兄さんの作戦を聞く気になったか?」
「……」
 それでもなお無言を貫こうとする彼に、悪魔の一言がささやかれる。
「チョコ、欲しいんだろ?」
「…………欲しい」
 いつになくしおらしい様子で頷いたアメリカに、恋の力って偉大だ、とセーシェルは妙に感心してしまった。