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逢坂@プロフにお知らせ
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【米英】Give me a chocolate!

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「――で、その作戦ってやつは?」
 素直に云ったからもういいだろうとばかり、ソファに座りなおすと焦れた様子でアメリカが尋ねた。するとフランスは、立てた人差し指を二人から自分に向けてたぐり寄せる仕草をする。もっと寄れ、という意味である。実に作戦会議らしい。セーシェルたちがソファから身を乗り出すと、フランスはボリュームを控えめにして云った。
「その前にまず、作戦の基本方針を云っておく。『なるようになれ』だ」
「……駄目じゃないですか!」
 一拍間をおいて、セーシェルが突っ込みを入れた。そんなケ・セラ・セラな計画があったものだろうか。けれどフランスは意外と真面目な顔で返す。
「そうは云っても、これは結局、あいつの気持ち次第だからな。けど俺もこんな計画を持ち出すからには勝算がないわけじゃない。むしろ勝つ気満々だ」
「ほんとですか?」
 疑わしい目で見つめるが、自信たっぷりに彼は肯定してみせた。
「もちろん。俺が思うに、イギリスは絶対にお前へのチョコを持って来てる。この計画は、それを前提とするぞ」
 さっそく向かいからも質問が飛んだ。
「持って来てなかったら?」
「そんときはそんときだが、持って来れなかったとしても用意はしてあると思うんだよな。ま、最悪、寮のあいつの部屋に押し入れ」
「……」
 アメリカは押し黙った。この作戦の行く末が不安になったに違いない。セーシェルにしたってそうだ。
「そんな乱暴な作戦ないですよ!」
「だから最悪の場合だって。まあ、十中八九、あいつは持って来てる。賭けてもいいね」
「分かった、それで?」
 そこは納得しないと先に進まないので、痺れを切らしたアメリカはなかば投げやりに頷き、先を促した。フランスは続ける。
「禁止令がある手前、イギリスはお前にいつ渡そうかとチャンスを窺ってるに違いない。だけどきっとあいつのことだ、お前が求めなければ、面と向かって渡すのは難しいだろう。――そこで、お前の鞄の出番だ」
「は?」
「え?」
 鞄? 唐突に出てきた単語に、セーシェルは面食らった。アメリカも同じようで、持って来ていた己の鞄に視線を向ける。今ソファの彼の横に投げ出されているそれは、黒のナイロン製の手提げ鞄だ。肩から斜めに掛けられるようにもなっていて、アメリカは普段そのようにして使っている。見たところ何の変哲もない代物であるが、彼が愛用しているものだということはセーシェルも知っている。それが何だというのだろう。
「それ、ちょっとこっちに寄越しな」
 アメリカは不審そうにしながらも云うとおりにした。手渡しながら質問する。
「俺の鞄をどうする気だい?」
「これをおとりにすんだよ」
「おとり?」
 まるでちんぷんかんぷんだ。さっぱり分からないでいる二人に、フランスは身振りを交えながら説明しだした。
「そ。いいか、これをそこのソファの上に置いておく。んで、お前はあっちの会長の机の下にでも隠れてな」
 フランスが指したのは、窓際にある生徒会長の仕事用デスクだ。イギリス愛用のそれは椅子とともに見事な彫刻が施されていて、良く云えば品格があり、悪く云えば古めかしい。かなり大きいのでその向こうには数人程度は隠れられそうではある。が、しかし。
「隠れてどうするんだい?」
 まさにセーシェルが思ったのと同じことをアメリカが聞いた。当然、フランスはその質問を読んでいたようだ。すらすらと手順を話し始める。
「いいか、イギリスが来たら、俺とセーシェルが出迎えて、アメリカが何かそわそわしながらお前を待ってたんだけど、誰かに呼び出されて今ちょっと席外したって云う」
「そわそわは余計だけど……それで?」
「まぁ、すぐ帰って来るだろうからソファで待ってれば、って薦める」
 アメリカは腑に落ちない顔をした。
「……それでも彼があっちの机の方に行ったらどうするんだい。まんまと見つかるじゃないか」
「ばぁか、だからその鞄を置いとくんだろ。イギリスがそれを見てお前のだと気づく確率は?」
 にやにやとしているフランスに、まったく意味が分からないながらもアメリカは答えを返す。
「……百パーセント気づくと思うよ。だってそれ、ここへの入学祝いに彼が俺にくれたものだし」
 フランスはへえ、とおおげさに驚いてみせた。
「そういやお前にしてはおとなしいデザインだと思ってたんだよな。あいつが選んだのなら分かる。……けど、ならなおさら好都合だ。放り出されたお前の鞄を見て、イギリスはどう思うかな?」
「どうって別に……あ?」
 何かを思いついたようで、アメリカはぽかんと口を開けた。もしかして、という顔でフランスを見る。彼は頷いた。
「そう、恐らく、こう思う――チャンスだってな。そこで今度は俺とセーシェルが用事を思い出すかなんかして、部屋を出る。そしたらひとりになったイギリスがすることはひとつだ」
 セーシェルはそのときようやく、フランスの云わんとしていることを理解した。
「分かりました! チョコをアメリカさんの鞄に入れます」
「セーシェル、正解」
 頷いて、フランスは手を叩いた。
「アメリカ、お前はそこから様子を見てて、イギリスがチョコを入れた瞬間に現れるって寸法だ。後はどうにかなんだろ」
 ていうかしろ、と付け足して、フランスは説明を終了させる。どうやらそれが計画の全容のようだ。
「そうか、考えましたね。でもそんな巧く行きますかね」
「巧く行かなかったら行かなかったで、お前と二人きりになればくれるかもしれないし」
「そしたら隠れてた俺が馬鹿みたいじゃないか……?」
 思わず想像して、もっともだ、と思ったがセーシェルは黙っておいた。
「けどとりあえずやってみる価値はありそうだろ?」
「……気は乗らないけどね。そもそもそれ、イギリスが俺のこと恋人って思ってるのが前提じゃないか」
 言葉どおりあまり乗り気ではないようで、アメリカは渋っている。理由はやはり、前提が前提だからだろう。さっきは恋愛とは限らないと云っていたフランスが百八十度方向転換したのも信じられないのかもしれない。
「ん? 弱気だねぇ。さっきまでの威勢はどうした。諦めんのか?」
「……それは」
 アメリカはぐっと言葉を詰まらせたのち、嫌だ、と思いつめた顔で続けた。そして決意した顔でひとつ息を吐いた。
「分かった、やるよ」
「そう来なくちゃな。じゃあ、さっそく始めよう」
「ああ」
 促されてアメリカがソファから立ち上がる。持ち場へと着くためだ。彼が背を向けたのを確かめてから、セーシェルは隣にこっそりと話しかけた。
「さすがフランスさん、乗せるの巧いですねえ」
 彼は苦笑しながら肩をすくめる。
「まあ、付き合い長いしな。それに、いい加減いいだろ」
「?」
 意味ありげな台詞に首を傾けるが返事はなく、フランスはソファを離れかけているアメリカに声を掛けていた。
「そうだアメリカ、この鞄だけどな、中に他の子から貰ったチョコ入れてないだろうな? そんなのイギリスが見つけたら興ざめだぞ」
 云いながら手にしていたそれの入口のファスナーを開け、中を覗きこむ。中身をチェックしているようだ。
「ちょっと君、人の鞄を勝手に漁らないでくれよ。チョコなんか入ってないし」