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逢坂@プロフにお知らせ
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【米英】Give me a chocolate!

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 姿を現したイギリスは、中に入るとまず、あれ、と呟いた。
「誰もいねえのか? 最後に居たやつ、電気くらい消してけっつの。どうせフランスのクソヒゲだろうがな」
 吐き捨てるように云ったイギリスに、フランスがぶるっと身震いする。
「俺かよっ……まあ俺だけど……俺いなくて良かった」
「危ないところでした」
「って、何で君たちまで隠れてるんだい! これじゃ予定と違うじゃないか」
 そう、現在セーシェルたちがいるのは、生徒会長の机の下である。あれから三人は電光石火のごとくこの場所に潜り込んだ。初めからそうする予定だったアメリカはもとより、当初はイギリスを迎えるはずだった、フランスとセーシェルまでも。
 アメリカの言葉に、フランスはおおげさに身振り手振りを交えながら言い訳をする。
「だあってえ、あんなんの相手なんてしたくないしい。何か俺の顔見たら首締めてきそうだしい」
「触らぬ眉毛に祟りなし……ってやつですよね」
「それそれ」
「それそれじゃないよ、まったく……あ、」
 机の横から中の様子を窺っていたアメリカが呟いたので見れば、イギリスがソファに近づいたところだった。アメリカは慌てたように机の中に身を引っ込ませる。
「おい、見ないのか?」
「う、うるさいな」
 代わってフランスがセーシェルの頭上から中を覗いた。イギリスはちょうどソファに視線を投げている。
「お、鞄に気づいた。手に取ったぞ」
「キョロキョロしてますね。正直、怪しいです」
「いちいち実況しなくていいよ!」
 アメリカが云うと同時、イギリスがこちらを向いた。
「――アメリカ?」
 しん、と空気が凍りつく。即座に頭を引っ込めたセーシェルとフランスは見つからずに済んだようだ、イギリスが殴りこんで来ることもなく、代わりに彼のため息と独り言が聞こえて来た。
「……って、居るわけねえよな。はぁ、幻聴まで聴こえるなんて、俺、どうかしてんだな……」
 困惑した声のイギリスは、手にしたアメリカの鞄を見て肩を落としているようだった。
「けどあいつ、鞄こんなとこに放り投げてどこ行ったんだ? 誰かに呼び出されてんのか……?」
「お、俺らの設定、そのまんま思いついてるぞ」
「中々の推察力ですね」
 気づかれていないことが分かったので、アメリカを除く二人は再び顔を覗かせる。
「……推察力っていうか……」
 反省したらしい、今度は二人にも聞こえないくらいの小声でアメリカはぼやく。それに二人が返事をする間はなかった。鞄をソファに戻したイギリスがおもむろに部屋の隅へと近づいて行ったからだ。そこには電子レンジと冷蔵庫が置いてある。そうだ――それがあった。
「れ、冷蔵庫から何か取り出してきました……チョコみたいです!」
「えっ」
「あっ、あいつあんなところに隠してたのか! 灯台下暗しとはこのことだな」
「――っ」
 アメリカは耐え切れなくなったようで、もぞりと動くとセーシェルとフランスの間から顔を出した。
 ソファに戻ってきたイギリスの手には、赤い包装紙で包まれた、小ぶりの箱があった。ちょうど彼の手のひらくらいのサイズだろう、彼はしばらく真剣な顔で、それとソファの上にある鞄を交互に見つめていた。
 その時間はほんの数秒か、せいぜい十数秒だったことだろう。だがセーシェルにはやけに長く感じた。ごくり、と唾を呑み込む。
 やがてイギリスは、息を吐くと、意を決したように箱を顔の前に持っていき、その側面に軽くくちびるを押し当てた。想いを念じ込めるかのように。
 それから箱を目にも止まらぬ速さで鞄に放り込んだかと思うと、彼はそそくさと部屋を出て行った。……気を静めにでも行ったのだろうか。
 バタン、とドアが閉まる音が静寂に響き、それで三人はやっと呼吸をすることを許されたかのように一斉に息を吐いた。
「やばっ、俺、ものすっごい恥ずかしいんだけど」
「わ、私もです。心臓どきどき云ってます」
 文字どおり、人の秘密を覗き見てしまった。けれど罪悪感よりも、居たたまれない恥ずかしさのほうが心を占めている。フランスも同じようで、ぽりぽりと頭を掻きながら苦笑した。
「計画しといてなんだけど、ここまであっさり巧く行くとは……自分の策謀能力が恐ろしいよ」
「アメリカさん、良かったですね!」
「あ、ああ……うん」
 ぼうっとしていたアメリカは、セーシェルに話しかけられてようやくはっとした。自分の見たものが信じられないのだろう、喜びの感情はまだ浮かべていない。夢心地、といったところだろうか。隣でフランスはまあ待てと呟く。
「喜ぶのはまだ早い。あれがチョコかどうか、確認しないとな」
「あ、そうか、そうですね」
「ちょっと、君たち!」
 立ち上がると机の下から飛び出した二人に、やっといつもの調子でアメリカが突っ込んだがもう遅い。
 フランスに続いてセーシェルがソファに辿り着く。鞄を覗くと、中にはさきほどの赤い包みの箱がちょこんと入っていた。金色のリボンが可愛らしく結んであるそれは、近くで見ればますますもってバレンタインのチョコにしか見えない。フランスはそれを手にするような野暮なことはせず、アメリカに向かって頷いてみせた。
「さ、受け取ってやりな」
「……」
 半信半疑といった顔で近づいてきたアメリカは、それを目にしてもやはり信じられない様子で、恐る恐る手に取る。
「あっ、カード入ってますね」
 包みとリボンの間には、カードが刺さっている。それを抜き取ると、彼は封筒から取り出して中身を開いた。
「何て書いてあるんだ?」
 フランスの質問に、アメリカは素直に答えた。
「……"You are my Valentine." 」
 読み上げたのち、それを二人に見せる。綺麗な筆記体で書かれた英文は、セーシェルの記憶が確かならば、確かにイギリスの筆跡だ。アメリカあての誰かのチョコを代わりに渡した、ということはなさそうである。
「お前は俺の愛しい人、ってか! いいねえ。ん? でもサインないんだな」
「ほんとだ。匿名ですね」
 云われてみれば、カードには彼の名前が書かれていない。ただ一言、その文句があるのみだ。フランスは呆れたようにセーシェルに云った。
「ばっか、そんなわけあるか。バレンタインのチョコだぞ? アピールしなきゃ恋が成就しないっつの。あいつのことだからうっかり書き忘れたんだろ」
「……違う、これ、わざとだ」
 即座に首を振ったアメリカに、セーシェルたちは驚いて尋ねた。
「マジですか?」
「何で分かんのよ?」
 彼はカードを見つめながら話す。
「……イギリスんとこでは、バレンタインは意中の人に、『密かに』告白する日なんだって。だからカードには敢えて名前を書かないものなんだ、って、昔、聞いたことがある」
 おかしな慣習があるものだ、とセーシェルは思う。
「名前書かなかったら、相手が自分のこと分からないじゃないですか?」
「俺も同じこと聞いたんだけど、そこが良いんだってさ。気づかれたら気づかれたで、気づかれないなら気づかれないで」
 へえ、そういうもんなんですかねえ、と頭をひねりながら返すと、フランスはなかば感心した口調で云った。