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逢坂@プロフにお知らせ
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【米英】Give me a chocolate!

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「なるほどねえ。お兄さんにはいまいち分かんない趣向だけど、あいつん家らしいといえばらしいな。特にあいつには合ってる」
「と云うと?」
 セーシェルが聞くと、彼はカードを示しながらアメリカを見た。
「密かな告白。これってつまり、お前に好きだと伝えたいけど受け入れられなかったらどうしよう、って気持ちがあるからだろ。つまりあいつの想いもお前と同じで、お前らは両想いってこと」
「イギリスが俺を……」
 口に出すとやっと実感してきたらしい、アメリカの表情に歓喜が滲み出てきた。
「やったじゃないですか!」
 セーシェルが祝福する横では、フランスがにやけながら彼の脇腹を肘でつついている。
「良かったなぁ、で、チョコはどんなんだ? ついでだし、開けて見せてみろよ」
「い、云っておくけど、君たちにはひとかけらだってやらないからな!」
「ああ、頼まれてもいらないから安心しな」
 せっつかれてアメリカは仕方なくといった風に、だけど一番気になっているのはもちろん彼だろう、落ち着かない様子でリボンを解く。
 それから包み紙を留めているテープを一瞬だけ探したが、面倒になったようで脇からびりびりとむしり始めた。荒っぽいねえ、とフランスが茶々を入れるが、もう返事はない。その手つきからもアメリカに余裕がないのは明らかだ。
 中から現れたのは、こげ茶色の紙の箱だ。どこをどう見ても立派なチョコレートの入れ物である。
「……っ、」
 いまや、一同の緊張感は最高潮に達していた。アメリカは一度深呼吸をすると、両手でその蓋を思い切りよく開けた。そしてその中身を確認するや否や、……各自、目が点になった。
「……空だ」
「空ですね」
「空だな」
 三人の声がそれは見事にハモった。
 驚くべきことに、中に入っていたのは、本来ならチョコが置かれるだろうプラスチックの凹みのある中敷、それだけだったのである。つまり、それは空箱以外のなにものでもなかった。
「……なんだい、これ」
 顔をうつむけてアメリカが呟いた。喜んだ反動で激しく沈みかけている彼を励ますように、明るい声でフランスが云う。
「……えーっと、コレってアレじゃないの、お前が太るから……気持ちだけってやつ?」
「……これなら規則も破りませんし、一石二鳥ですね!」
 どうにも苦しすぎた理由づけは、かえってアメリカの地雷を踏んでしまったようだ。勢い良く顔を上げると、箱を手に入口へとずんずんと歩いていく。
「何が一石二鳥なもんか、イギリスのやつ! 探し出して文句云ってやるんだぞ!」
 しかし彼がドアの前まで来たとき、ちょうどそれが開いた。
「あっ」
 イギリスが戻ってきたのである。彼はアメリカに気づくとあからさまに驚いた顔をしたが、精一杯顔に出さないようにして声を掛けた。もっとも、動揺しているのはばればれだったが。
「よ、よお。アメリカ、来てたのか」
「あー、飛んで火に入る……てやつだな」
「噂をすれば……ってやつでもありますね」
「何だ、お前らもいつの間に来たんだ?」
 降って湧いたような三人をイギリスは不思議そうに眺めるが、今はそれどころではない。にじり寄ったアメリカは、手に持っていた箱を彼に突きつけていた。
「そんなことよりイギリス! コレ、何のつもりだい?」
「あっお前、そんなの出して」
 イギリスはさっと頬を染めるが、アメリカは気に留めない。
「ひどいよ、空箱じゃないか!」
 訴えを聞いたイギリスはぱちくりと目を見開いた。
「えっ、そんなはずは……」
「おいおい素直に認めちゃったよ、あいつ、自分からだって」
 ぼそっと呟いたフランスに、セーシェルも頷く。
「だったらコレ見てくれよ! 云っておくけど、食べたわけじゃないからな。この二人が証人だ」
 云われて、差し出された箱の中をイギリスは不可解な面持ちで見つめていたが、何かを思い出したようで、あ、と云う。
「中身入れ忘れてきた……」
 フランスはぶっと吹いた。
「マジでか。って云うか、入れ忘れたってことはあいつ、よりによって手作りなのかよ」
「忘れて正解かもですね」
「んだとてめえら、後で覚えとけよ!」
「ひいっ」
 まさか聞いていたとは思わず、ドスを利かせた声に二人はすくみ上がる。しかし幸いと云うべきか、それ以上の追及はなかった。アメリカがぼそりと呟いたからだ。
「……君ねえ、忘れものが多いにもほどがあるだろう」
 ドアの方へ顔を逸らしているので表情は見えないが、声色から彼が不機嫌になっているのは明らかだ。イギリスは慌てて宥めようとする。
「わ、悪かった。今から部屋戻って取ってくる。だからここで待ってろ、な?」
「いいよ!」
「?!」
 思わぬ激しい切り返しに、三人は身をすくめた。驚いたのはセーシェルたちも同じだが、イギリスに至っては、衝撃で固まってしまっている。アメリカは視線を彼に戻すと、強い調子で云った。
「取りになんか行かなくていい」
 イギリスは戸惑った様子で手を伸ばしかけたが、思いとどまって自分の胸のあたりで拳を握った。それから下を向いて尋ねる。
「それ、俺からのチョコは受け取れないってことか……?」
「……あの馬鹿、何やってんだ」
 フランスが軽く舌打ちをして漏らした。馬鹿とはもちろん、アメリカのことだろう。イギリスは端から見ていても気の毒なほど、ショックを受けている。
 セーシェルにしても、せっかく誤解が解けて巧くいきかけているのに、冷たい態度を取るアメリカの心情が分からない。固唾を飲んで見守っていると、彼はポケットに入れていたカードを取り出してイギリスに見せた。
「このカード、本気かい?」
「あ……こ、これは」
「本気で俺のこと恋人だって思ってくれてるの?」
 聞き方は責め口調だが、質問の内容からイエスを求めていることは分かる。イギリスは逡巡しながら答えた。
「だって……お前があんなことするから……」
「告白だけじゃ君、分かってなかったからね」
「……すまない」
 イギリスが詫びると、アメリカは苛立ったように頭を振った。
「謝ってくれなくていい。むしろ謝らないでくれよ」
「でも、だったら俺は……」
 どう対処したらいいのか分からないらしい、顔を上げたイギリスは困り果てた表情でアメリカを見つめる。その目をまっすぐに見返すと、アメリカはイギリスの両の肩口をがっしりと掴んで、その口を開いた。
「――いいかい、何度も云わないから良く聞いてくれ。俺は君が好きなんだ。親子でもない、兄弟でもない。俺は君と恋人になりたいんだ!」
「アメリカ……」
 イギリスは呆然とその名を呼ぶ。一気に想いを吐き出したアメリカは、真剣な顔つきをしたまま、一転して静かな声で聞いた。
「……君も同じだって思ってもいいんだね?」
 台詞は切ない響きをもって、セーシェルたちに届いた。直接云われているイギリスにはなおのことだろう。彼は食い入るような視線から目を逸らすことなく、こくりと頷いた。
「……ああ」
 それでやっと、アメリカはほっとした顔で肩の力を抜いた。
「良かった……。だったら君のチョコを受け取りに行くよ」
「えっ、」
「君の部屋までね。いいだろう?」