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四日間の奇蹟

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想いや気持ちを伝えるのは、きっと言葉ではない。音として捉えることができる言葉や、文字として表すことのできる言葉は、その意味を表すことはできるけれど、きっとその気持ち自体を直接伝えるのは、言葉なんて安易なものではないのだ。


雨が降っていた。
暗い部屋に、雨音がサーサーと響く。放課後の教室は、日直の樺地以外の生徒はもう皆帰ってしまって、昼間と打って変わって閑散としていた。
教室の床には、窓の外の鈍い光が反射している。
樺地は、一字一字日誌の行を埋めていった。大きな体を、窮屈そうに机に収め、丁寧に文字を書き込んでいく。あせらずとも、今日の部活は雨の為に、室内で軽いミーティングと筋トレくらいだろう。しかし、もし外が晴れていて、通常通りの部活が行われていたとしても、日直の仕事を安易に終わらすというようなことはしない。任された事は、責任をもってやり遂げる。実直、というよりも、純粋という言葉が、樺地という人間を表すには適切である。
樺地は無口である。自分の気持ちや思ったことを口にすることはほとんどない。樺地が言う言葉、それは「ウス」という二文字だけである。何を考えているかわからないと言われ、その巨体と相まって恐がられることもあるが、しかし樺地の人となりを理解しているものは、その小作りな目がその口以上に彼の心情を物語ることを知っていた。その瞳は、常に穏やかで、優しい色をしていた。樺地の言いたいことを理解するには、その瞳の色を見ればいい。
樺地は人との距離を測ることがうまい。お互いがお互いに心地よいと感じる距離を感じ取ることができる。樺地が、相手のことをどのように捉え、どのように思っているか、その距離は、時に言葉より尾弁に語っている。
想いや気持ちを伝えるのは、きっと言葉ではないのだ。目に見えるものや、耳で聞くことができる言葉は、その意味を表すことはできるけれど、きっと本当に大切なものは、言葉、なんて単純なものではなくて、もっと別のものである。胸に届く想いは、「言葉」としてではなく、その内の温かい熱をもって体内にのこる。樺地は、それを本能的に知っている。
あの時、樺地の心配そうに覗き込む瞳を思い出し、目を閉じた。


「樺地」


俺は、そう呼びかけて、薄暗い教室に足を踏み入れた。





作品名:四日間の奇蹟 作家名:310号