四日間の奇蹟
閉じる瞳 «Sisido + Atobe Side»
三歳の頃だった。幼稚園にあがったばかりの頃、宍戸のクラスには特別目立つ男の子がいた。髪は薄茶色で、肌も白い。全体的に色素の薄いその男の子の一番の特徴は、青い瞳だった。宍戸は、自分とはどこか違う雰囲気を持つその子のことが気になり、何かにつけてその男の子と一緒に遊びたがった。同時に仲良くなったジローと一緒に、三人は共に行動するようになり、その関係は今でも続いている。もちろん、青い瞳の男の子は、跡部だった。幼稚園の時の跡部は、今とは全然違い、人見知りで引っ込み思案で、宍戸たちが引っ張ってやらないといけないようなおとなしい子供だった。それが、小学生に上がり、だんだん人と触れ合う事に慣れてくると次第に今の性格に近づいていき、もう幼稚園の頃の跡部を連想することが難しい程に、身も心も成長した。メンタル面は成長しすぎたと、宍戸は思っている。
そんな跡部にも、昔から変わらないものがある。それは、相変わらずの白い肌とか、綺麗な顔立ちとか、柔らかな猫っ毛の茶髪とか、そういった彼を特徴づける要素の中では一際目立つ、綺麗なブルーアイだった。小さな頃から、跡部の青い瞳が、何か特別な宝石でできているのではと思っていた。実は今でもその思いは変わらない。もちろん本当に石でできているなどとは思っていなかったが、跡部の瞳はそう思ってしまうほど、自分にとっては魅力的だった。その青い瞳で映す世界は、一体どんな風に見えているんだろう。 きっと自分と彼では、世界は違って見えているに違いない。神秘的なブルーのレンズを通して見る世界は、きっと美しいものなんだろう。宍戸は幼い頃から密かにそう思っていた。
だからあの時、突然目の前に広がった青は、息を呑むほどに綺麗だと思ったのだ。青い空と白い太陽が一瞬で回転し、太陽の光が自分の視力を奪った。背中に衝撃を感じて、次に世界が戻ったその時、自分の視界一杯に広がったブルーは、自分が今までもっとも近くで見た、跡部の瞳だった。
「 」
跡部の口が動いて、何か言ったようだった。ワンテンポ遅れて、「平気か?」と聞いたのだと分かった。跡部の白い肌には赤いものがついていた。ああ、綺麗な青い瞳にまで赤いものが侵食しようとしている。宍戸がそれを止めようと手を伸ばすと、跡部が宍戸の手を握った。早くしないと。赤い血が。宍戸は言葉を発しようとするが声がでなかった。青い瞳は、宍戸の目の前で静かに閉じた。
この時宍戸は、綺麗な瞳がもう見れないことを残念に思った。昔から近くで見てみたいと切望していた青い瞳は、一瞬で閉じてしまった。宍戸はその手に跡部の温もりを感じながら、もう一度あの綺麗な瞳を見たいなと願った。そして、自らも眠りの世界にゆるゆると落ちていくのを感じた。