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四日間の奇蹟

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閉じる瞳 «Ohotori + Atobe Side»







このラリーをやめてしまえば、目の前の男は死んでしまうと思った。一定のリズムを刻むインパクト音。それはまるで心臓の音のようだ。ドクンドクン。ボールを打つ音と重なって、自分の心音が耳にうるさかった。真剣にボールを見つめるその瞳からは、なにか並々ならぬ意志や決意というものが読み取れた。もともとテニスがすごく好きな人だったから、始めはただの球の打ち合いにも真面目になってしまうのだろうと思っていた。しかし、ラリーが続いていくうちに、その人の体全体から何か訴えかけてくるものがあると、そう鳳は感じた。


あの時感じたこの感覚は一体なんだったんだろう。あれから数ヶ月経って、先輩達が卒業した後でも、宍戸のことを思うとふとでてくる疑問である。あれは、空港ショーの事故があってから三日程たった、放課後のテニスコートでのことだった。






「よう長太郎」
「あ、宍戸さん!もう体の具合はいいんですか?」


部活の終了後、監督との打ち合わせに出かけた日吉の代わりに、部室で部誌を書いている時だった。病院に入院していると思っていた宍戸が突然顔を出した。


「退屈だったから、自分から言って退院してきちまった」
宍戸は制服で、手にはテニスバックを持っていた。顔色も普段通りで、さっきまで入院していた割には元気そうだった。
「無理しないでくださいよ。怪我もしたんですから、安静にしてないと」
鳳が心配そうに言うと、宍戸は手をひらひらさせて、平気だと言った。
宍戸の特訓に付き合った鳳は、宍戸の無茶な性格は重々承知していたから、その言葉をすんなり信じるには不安があったが、病院側が退院の許可を出したのなら、宍戸の怪我はたいしたことないのだろう。
事故以来跡部と宍戸のことが心配で気が重くなっていた鳳だったが、宍戸の元気な姿を見てほっとしている自分を自覚した。
宍戸は、部室に入ってあたりを見回すと、日吉は?と聞いた。
「監督と練習試合の打ち合わせです。今日は戻ってこないと思いますよ。部室の鍵も俺が預かってますし」
「そうか…」
「何か日吉に用事でも?」
「いや、そういうわけじゃないんだ」
そういって、宍戸は部室のソファにテニスバックを置いた。
「…まさか、今から打とうなんていうんじゃないでしょうね」
「あれ?バレた?」
「バレバレですよ…。宍戸さん、退院したばっかりなんだから無茶はしないでください」
「大丈夫だって。怪我だって、擦り傷とかそんなんばっかりだし」
「でも…」
「先輩命令だ。相手しろ」
宍戸が、いつの間にか手にラケットを持って、腕をまくったワイシャツ姿になっていたので、鳳はつい苦笑してしまった。この人は、本当にテニスが好きだ。



日が落ちたテニスコートには、フェンスや照明の影と共に、自分たちの影が長く伸びた。西の空は真っ赤に燃えるような夕焼けだ。太陽がとても大きく見える。差し向かいで立った宍戸の顔にも、赤い光が当たっていた。


「いきますよ」

そういって、鳳はまずはゆるいサーブを打った。肩慣らしのつもりで、軽いラリーをする。パコン。パコン。自分たち以外に誰もいないがらんとしたコートにボールの音が響いて、それが辺りの静けさを増徴させているような気がした。
なぜか胸がざわつくのを感じた。




思えば、あの時から宍戸の様子はおかしかったと思う。跡部の容態が急変したとの連絡を回した時の宍戸の様子が、まるで今まで跡部の入院の事など知らなかったかのような様子だったのも確かに変だといえば変だった。しかし、あの時テニスコートで鳳が感じた違和感とは、まるで宍戸が宍戸じゃないような、そんな違和感である。




ボールの勢いが強くなった。
宍戸が打ち返したボールは、回転がかかってかなりの威力になっている。
自然、鳳も力を込める。
宍戸は真剣な目をしていた。鳳は、宍戸のその目が好きだった。切れ長で意志の強そうな黒い瞳に憧れた。今はただのラリーにも夢中になって真剣な眼差しを向けている。それだけこの人はテニスが好きなのだ。
鳳はくすりと小さく笑った。


「長太郎」
「はい」
「何笑ってんだ」
「いいえ。なんでもありません」


そう言って誤魔化した。本当の事を言えば、きっとこの人は怒るだろうから。
そんな鳳を、宍戸は不服そうに見て、


「油断してんなよ」


といった。
次の瞬間、さっと前に出て、鳳の隙を突くコースで攻めてきた。


「ちょっ!不意打ちは卑怯ですよ!」
「へっ、攻めたもん勝ちだ」


やっとの事で打ち返したボールは宙に高く上がり、弧を描いたボールは、一瞬で宍戸にスマッシュされて鳳のコートに突き刺さった。




作品名:四日間の奇蹟 作家名:310号