"忘却は罪"と忘れること勿れ
『雲雀さんっ!!』
あの日、彼の願いを叶えてしまったことは本当に仕方がなかったのかな
避けられない運命だったのかな
…僕はどうすれば良かったのだろう
Ⅳ
「……ん」
「お目覚めですか?雲雀くん」
「…なんでいるの」
腕に力を込めた瞬間、激痛が走る
「っ!!」
起き上がれない
視線だけを動かすと、腕から伸び医療器具につながるチューブが目に入った
…そうか、あの時僕は
「撃たれたのか…」
「ええ。でも弾は貫通していたようなので大事には至らないらしいですよ」
君達を襲った雑魚も捕まえておきました
六道はにっこりと笑う
(君、たち?…!!)
「綱吉はっ…!?」
「彼ならほら、あなたの腹の上に」
六道の手を借りて起き上がって見れば、すやすやと寝息を立てる彼の姿
頬に絆創膏が貼られているのを除けばどこも怪我はしていないようだ
僕は小さく、安堵の溜め息を零した
「君が庇ったおかげで彼は無傷でしたよ。…覚醒を除けば」
六道の表情が微かに曇る
覚醒…死ぬ気の炎を額に灯した彼
死ぬ気弾、あるいは死ぬ気丸によって覚醒していた彼だったが、半年前に記憶を失ってからは一度も目の当たりにはしていない
「死ぬ気弾なしで灯すなんて…と、アルコバレーノも驚いてましたよ」
「…大丈夫なの?」
「今は僕の能力で深い眠りについています。それよりも心配なのは、」
君の怪我の容態です
僕は六道の言い方に引っかかりを覚えた
「ど…いう、こと」
「君は…彼を連れ去るぐらいの体力は残っていますか?」
連れ去る…つまりはここから逃げる、ということ
抜かった…この男はそれをわざわざ聞くためだけにここを訪れたのだ
その通り、という表情で六道は続ける
「彼をあの監獄から救いたいと思ったから、半年前に手を貸したのでしょう?なら、」
今回だって迷わないはずです
自信あり気な笑み
僕は軽い吐き気を感じた
「僕なら君達の力に」
「約束を、したんだ」
六道の言葉を遮って僕は言葉を紡ぐ
「半年後、彼が記憶なくとも覚醒したのなら…その後のことは彼が全てを決めると、」
全ては彼が決断する
例え、記憶がなくて彼が全てを取り戻せなくても…
「僕が半年前行った事は絶対に赦されることではない」
半年前、血に塗れ、震える彼を抱き締めて僕は禁忌を犯した
『…記憶をなくしたら、君は"ここ"から逃げられるのにね』
ほんの冗談のつもりだった
『もし君が全てを忘れたいと願うのなら…僕が、手を貸す』
監獄の中で酷使され、望まない抗争に駆り出され、人を殺す度感情が欠落していく彼…
そんな彼を助けられるなら、と思っただけだったのに
『お願いが…あるんです』
あの日…彼はそれを望み、僕へと命令を下した
僕はそれを享受し、叶えてしまった
目を開けたとき、彼は一体何を感じるのだろう…
僕は本当にこれを望んだの?――
作品名:"忘却は罪"と忘れること勿れ 作家名:雪兎