"忘却は罪"と忘れること勿れ
「全ては…彼が判断を下す」
六道は黙って僕の独白に耳を傾けていた
そしてしばらくの沈黙の後、彼は小さく息を吐き出してこう言った
「では…仕方がありません」
直接彼に問いましょう
「!」
六道の手が彼の額に触れる
僕はとっさに動いたが体が鉛のように重くて指一本すら動かない
額に手が触れたと同時…彼の目蓋がゆっくりと開いた
「おはようございます、綱吉くん」
「……む、くろ…さ…?――雲雀さんっ!!」
彼の視線が僕へ向く
大きな瞳に称えているのは…不安、だ
「大丈夫だった?」
そう言って伸ばした腕を彼は大事そうに握った
「ごめ、なさいっ…!雲雀さんっ…オレのせい、で…」
泣きそうな表情
あぁ…こんな顔をさせたい訳じゃないはずなのに
抱き締めて慰めてやりたいのに、こんな肝心なとき動かない体
どうしていつも、僕は彼を救えないのか
どうしていつも僕は彼に悲しみを味わえさせるのか…
「ごめ、なさ…っ」
どうしたら僕は君を救える?
僕は…どうすれば良かった?
解決する術が分からなくてもどかしい
「…泣かないで」
肩を震わせて泣く彼に、今の僕の言葉は届かない
言葉の無力さが悔しかった
「綱吉くん」
僕らの様子をじっと見ていた六道は、泣き始めた彼の涙を丁寧に拭っていた
「君は、雲雀くんといたいですか?」
「…え?」
きょとん、と驚いた表情
事態をいまいち飲み込めていないらしい
「それって、」
「要は、僕達と一緒に来るか、来ないかです」
六道の誘いに彼は困ったように眉を寄せた
多分、今日の襲撃について赤ん坊から事情を聞いたのだろう…自分がマフィアのボスだから狙われたのだと
彼のことだ、きっと僕らのことも巻き込みたくないと考えていることぐらい、容易に分かった
「僕達と一緒に行きましょう、綱吉くん」
「六道…それは綱吉が決めることだ」
「…お、オレ…」
「雲雀くんっ」
彼の瞳が揺れ動く
僕らは黙って、彼の返答を待とうとした。その時、
バンッ―
病室の扉が勢いよく開き外から赤ん坊達が入ってきた
「ツナを、返してもらう」
「アルコバレーノ…っ」
「り、リボーンさんっ!?ちょっと待っ…っ離してください!!」
赤ん坊に連れられていく彼
僕は何もできずにただ目を逸らさず、その様子を…彼を脳に焼き付けるように見つめ続けた
(…一緒に生きたい、なんて)
そんな事、思っちゃいけなかったんだ
本当は、半年前に手を貸したことを今でも後悔してた
ただ、彼との秘密の共有を持てることが嬉しかった
毎日彼と時間を過ごせるのが喜びだった
でも、結局あれは幻、幻想に過ぎない
あの日、僕が手を貸したことで未来が変わり、彼も変わってしまった
それは謝っても赦されない罪
僕のエゴの成れ果て…
「雲雀、テメーの処理は追って下す」
「…分かった」
「雲雀さ…オレっ…!」
彼は必死に連れられまい、と僕の腕を握っていた
その指が一本ずつ離れていく
「やだっ…雲雀さんっ!!」
「綱吉、」
僕はもう、君の居場所へ行くのは赦されないけれど、せめて一言…最後に君へ想いを告げるくらい許されるよね
「好きだ、愛してる…」
「雲雀さ…っ!!」
作品名:"忘却は罪"と忘れること勿れ 作家名:雪兎