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"忘却は罪"と忘れること勿れ

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「やぁ」
「あ、ひばりさんっ」
「具合はどう?」
彼は今、並盛の病院に入院している
半年前、抗争で生死に関わる怪我を追った彼
生きる代償に、彼は―すべての記憶を失った
自分の存在意義すら分からない哀れな子
名前すら、彼の中には存在しなかった
僕はというと、半年前のその日にボンゴレを辞めた
辞めても僕は困らないし、不利益にもならない
財団があって、彼がいて…それ以上、必要なものがあるのか
彼さえいればいい
彼には僕との記憶だけでいい
それ以上、何も望まないし必要なものもない
「ひばりさん、ひばりさん。今日はね」
楽しそうに、今日あった出来事を語る彼の傍に腰を下ろす
…記憶をなくしてから、彼はよく表情を変えるようになった
ころころと、まるでプリズムが光線を受けて七色の光を放出するように
嬉し顔、泣き顔、照れ顔…彼がボンゴレを継ぐ前までの表情が戻ってきた
その事実が喜ばしくて、僕は柄にもなく声を立てて笑いたかった

「そういえば、今日は骸さんと一緒じゃないんですね」
「あぁ、アイツなら仕事の後で寄るみたいだよ」
彼がここに入院している事を知っているのは、六道骸ただ一人
気に食わないけれど、この男のおかげでボンゴレはまだ気付いていない
…六道骸の幻術で創られたボンゴレ10世
気付かない群れがあまりにも滑稽だと、あの男は嘲笑っていた
どうせ、奴らは自分の事が大切すぎるあまりに他の事なんてどうでもいいのだ
弱いから群れる
自身の保身のために群れる
ギリ―気が付いたら、無意識に歯軋りをしていた
「ひばり、さん?」
どうかしましたか?
彼が心配するように顔を覗き込む
「…大丈夫。」
微笑んで彼に告げると、「無理しないで」と返された
そんな些細な事が僕には嬉しすぎて堪らない
そっと、彼の頬に自身の指を這わせた
くすぐったいのか、彼はくすくすと笑う
そのうち、頬にあった指を顎にかければ彼の瞳はとろん、と融けた
今、琥珀色の瞳に映るのは己だけ
つい半年前までは多くの群れと惨劇しか映らなかったのが嘘のように
今は僕しか映らない
なんて優越感
満たされた独占欲…

「綱吉…愛してる」
「オレ、もです」
照れるように柔らかく笑う彼
お互いを求めて重なり合う唇
期待と隠しきれない情欲を孕ませた熱い吐息…
誰も知らない僕達の世界
静かな、まるで世界から切り取られたかのような、僕達だけの空間
願わくば、この幸福が永久に続きますよう―