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"忘却は罪"と忘れること勿れ

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他愛のない話をして、笑って、照れて、喜んで…そういう日々を彼と過ごすことが夢だった
殺伐とした世界に生きる僕の、素朴で小さな夢
思いがけないことで彼と過ごした半年は、本当に夢のようだった
ずっと続いてほしい、続けばいいのに…
何度、僕は神に祈ったのだろう
それなのに、
『…アルコバレーノが日本に向かったそうです』
唐突に突き付けられた終わり
…所詮、夢は夢でしかないのだと思い知らされた


  Ⅱ


記憶喪失になった沢田綱吉を並盛の病院に連れてきてから約半年
一度も記憶を取り戻すことが出来ずに、彼は毎日を過ごしていた
人間の脳は、都合のいいように創られていて、思い出したくない記憶を本当になかったことにしてくれる…その事実が僕に酷く安心感を与えた
(…永久に、思い出さなければ)
毎日毎日、くだらないことばかり考えるほど、彼と過ごすことが楽しかった
僕が彼に想いを寄せれば寄せるほど、彼はその想いに応える
日に日に僕に対する彼の依存は高くなり、僕も日に日に彼への執着が高くなる
抜け出すことの出来ない無限の鎖
いつしか…己を縛り付けるその鎖にすら、僕は喜びを感じるようになっていった

「綱吉」
「ひばりさん…?」
ベッドに腰を掛けていた彼を後ろから抱き締めると、彼は何か感じ取ったのか、不安げな声を出した
「どうかしま」
「僕を置いていかないで」
こくん…息を飲む音
(…ごめん)
何も言えない僕は、彼の首筋に頭をうずめた
…分かっていたことだ
遅かれ早かれ、赤ん坊が気付いて彼を取り戻しにくるのを
(半年前、六道骸と想定した範囲内じゃないか…っ)
永遠はあると信じ込んでいた僕
幸福に浸っていた僕の脳裏をかすりもしなかった現実
突然、足下が崩れる恐怖
(君を失ったら僕は…)
「ひばりさんを置いていくなんて、オレはしませんよ」
腕に添えられる温かな手
「オレ…昔の記憶―ひばりさんを思い出せないのは悲しいけど、」
今のひばりさんが大切なんです
一つ一つ確かめるように告げていく彼に、抱き締めた腕に力が籠もった
「僕も君が大切だよ…何処にも連れていかせたくない」
「じゃあ、ひばりさんがオレを守ってください」
オレが何処にも行かなくていいように
柔らかく微笑んで彼は僕へと体を預ける
預けられた重さがとても愛おしい
だから、尚更
「…オレは貴方のものです」
そう呟いて笑った君を、離すことなんて出来やしないんだ