ラブレター2
そのことを咎めるように痛む身の淵を堪えている。
忍足は判っていないだろう。自分の言葉や行動がどれだけ俺を動揺させるのか。きっと、気付いていないに違いない。
凍えそうなほど冷めた眼をしているくせに、好きだと囁く声は酷く熱く、甘く、聞いた端から身体中に浸透して火を灯していく。云うことと態度がこれほど違うというのに、次第次第に馴らされて行く頭を止める術はなかった。
危険だと、気を付けていた筈なのにいつの間にか罠にはめられた気分だ。けれど同じことを問うと、忍足もそれはこちらだと云うかもしれないが。
一番近くで向き合っているくせに進もうとする場所は平行線で、いつまでたっても噛み合わない。それを良しとするには、まだ些か気持ちはぐらつくけれど、それが望んだことだとするならばその内慣れてしまうだろう。
自分が、諦めてこの厄介な感情を抱え歩くことを決めた時のように――――。
跡部は我に返るように軽く息を吸って、ゆっくり吐き出した。そしておもむろに時計を見やると、とっくに部活が始まる時間を過ぎていることに気付いて、慌ててドアへと足を運ぶ。扉を開けようとノブに手をかけた瞬間、再び岳人の声が頭に響いて反射で動きが止まった。
しかし直後、そんな自分を振り切るかのように眼を閉じ、そして開ける頃にはうっすらと口元に笑みを浮かべている。
「今更、あいつに何を望むっていうんだ…………」
誰に云い聞かせることもない呟きだけを残して、今度こそ跡部は部室を後にした。