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13.落下

空気が湿ってきているのに、喉が渇いて仕方がない。
どうしてだろうか。
心が乾く。

どうやってでも、社長室に殴りこんであの男は潰さなければ。
結局、作戦らしい作戦が取り持てるメンバーでもないため、帝人捜索隊は再び音楽会社のビルのほうへと向かい始めていた。
空がどんよりと曇ってきており、雨が降る気配はないものの、夕暮れの時間であることもあって世界は夜に向かって急速に光を失いはじめていた。
まだ街灯が点く時間ではない。

「……雨でも降るのかな…」

誰もが俯いて歩く中、新羅はぽつりと呟いて空を見上げた。
一緒に歩くのは、何とも凸凹とした連中だ。見た目も心の中も。
でもその目的はほぼ同一であり、求める人間は同じであるという事実が、何となくむず痒い。
元々、面白いことに首を突っ込むカタチで参加した新羅も、今ではここまで周囲をかき乱す”竜ヶ峰帝人”という存在に興味を抱いていたし、脳波や神経系統は全くの専門外であるが、その歌声というものを研究してみたい、いや、ただ聴いてみたいという欲求も生まれていた。
純粋な感情でこの捜索隊に参加する必要はない。
そんなもの、きっとセルティしか持ち合わせていないのだから。

まるで信頼のないチーム。
知り合いでない者も混ざっている。特に紹介もされてはいない。
そうかこれが、ダラーズの縮図なのかもしれない。
そしてこれを作ったのが、”竜ヶ峰帝人”だというのだから、本当に面白いことだ。
独りで考え込みながら、次の足を踏み出そうとした時だった。


　『―――――――』


その瞬間、何が起きたということもないのに、空気がピンと張る。
驚いて周囲を見回したのは、全員。…ではない。

「シズちゃん！」
「黙ってろ！！」

空気がピンと張ったのはこの２人のせいだ。
セルティが何事かわからずに不安げな様子で新羅を振り返る。
しかし静雄と臨也が急に殺気だった表情で、何かを全身全霊で探しているのが見て取れて、結局何も言うことが出来ずに、ただ何もわからない３人だけで顔を見合わせた。

静雄がサングラスを外し、目を閉じて俯く。
耳を、澄ませているのだ。ほんのかすかな音が、どこから聴こえてくるのかを確かめるために。

「……帝人くんの、歌が聞こえる……」

臨也が目尻を歪めながら呟く。
そうは言うが、他の３人には、何の音も聞こえてはなかった。

これが、あの毒のように体の奥深くまで染み込んで、体の自由をじわりじわりと奪っていく『歌』というドラッグの効果。
一度まともに聴いてしまったが最後、深層意識の中で、常に耳が求めてしまう音。敏感に感じ取ってしまえるのは、体の奥に埋め込まれた音のカケラが共鳴するから。
そして、そこに乗せられた感情に引き込まれてしまうのも、その効果。