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【DRRR】 emperorⅢ 【パラレル】完!!

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14.断罪




「僕が、こんなところで歌えないこと、知っているでしょう?」

そう言えばそうだ、と、至近距離まで近づいていた男は、嬉々として部屋の奥に特設された非常用階段へと案内した。それは、屋上に続いているようだった。
その階段の閉じられた空間に満ちた、どんよりと溜まった空気に、息が詰まる。
それがふと、あの音楽室を思い出させた。
僕はきっと、もうあの場所で何かを殺して、今まで仮初で生きてきていたんだ。

自分はもう死んだのだと感じた。
こんな現実はいらない、と思った。
別の、非現実的な現実が欲しいと願った。
もっと、まともに狂った世界が欲しいと募った。
そしてそれを手にすれば、生きていけるのではないかと錯覚した。
それが、ダラーズだ。
僕が手に入れた、現実であるのに非日常であり、実在しないようで確実な力。僕が作った僕が生きていける世界。
それが、ダラーズだ。

でも、目の前に広がったヘリポートと、狂気に満ちた笑顔をした男も、確かに僕の現実だった。
それがとても悲しい。
とても苦しい。
心の奥底で封じ込められて、真っ暗で冷たい泥沼の中、泣いていたのは、”エンペラー”だったのか、”僕”だったのか。

「君の声はまさにこの世界そのものだと言ってもいい!私に降り注いだあの全身全霊で体感する感情と神秘的な響きを、さぁ、再び私にくれないか!!」

男が両手を力いっぱい振り上げる姿を、滑稽だと思った。
僕は自分が歌える場所はどこかと周囲を見渡し、そして、ようやく見つけた。
フェンスの向こう側に。

「そんなに、僕の歌を聴きたいなら、今まで自分がした罪を懺悔して下さい」
「私の神は君だ。私の全てだ。君になら何だって懺悔し、許しを請おう」

フェンスの向こうに降り立てば、壁が出来たような安心感が少し出来る。
まずは、と語り出した男に、携帯を向けた。
先ほどの部屋を出る前に、床に落とされていたこの男の携帯を持ってきたのだ。本当はこんな男の所有物に触れることも拒絶したかったが、これは、自分以外の被害者に対する償いであると言い聞かせる。
やけに重たく感じる携帯電話を目の高さまで掲げた。
動画を録画していく携帯の画面の向こうで、男は”エンペラー”を愛するがゆえに強姦未遂を起こし、それ以降近づけなくなったことで、幾人もの少年を暴漢したとまるで愛のように熱く告白していた。それも歌手を志望し、社長という肩書きの前に何をされても結局口をつぐんでしまうような者ばかりを集めたと。
権力による圧力と、性的な行為の強制。
詳しい人数までは覚えていないと笑う。部屋に帰れば、全部録音してあるから探して数えてもいいと少し自慢げに言う。

ああ。
この男はまるで知らない。そうされた者がどんな感情を受けるのかを。
自分の知っていたセカイが全壊して、絶望に包まれるのを。

「……もう、結構です」

録画を止めて、吐き気を堪えて少し俯いた。
少しでも気が緩めば、全部吐き戻しそうなほど、気持ち悪くて、怖かった。
コレが自分と同じ人間であるという事実が、どうしようもなく嫌で、いっそそれなら自分が人間でなくてもいいとまで思う。
自分があのとき、周りの大人たちにあの事実を伝えられていれば、その後に被害者は出なかったかもしれない。いや、きっとそうだ。それならきっと、僕も罪を負っている。

「歌を…、歌いたい………」

見上げた空は、かつて歌った夕暮れのように綺麗に晴れたものではなく、どんよりと曇っていた。晴れていたらよかったのに、と思うのに、晴れていなくてよかった、とも思う。
綺麗な景色を見ても、変わらずこの感情を歌える自信がなかったから。

瞼を一度閉じれば、恐怖に震える手が、その小刻みな動きを止めた。
大きく息を、吸い込む。
それはいつも話しているのとは全く別の経路を通って、体の奥底から生まれた風が吹き流れ、口を介して体外に溢れ出る音の塊だ。
感情を詰め込んで、風に乗せて、僕という存在を細かく引きちぎって吐き出す。

聴いて下さい。
僕が貴方に歌う歌。
僕が初めて、人を呪う歌。

  あなたへの『憎しみ』
  過去への『恨み』
  現実セカイの『嫌悪』
  周囲の全てに抱いた『絶望』
  生きていることの『拒絶』
  肉体的な『痛み』
  身体的な『苦しみ』
  結局、被害を増やしてしまった『怒り』
そして
  貴方に向ける、明確な『殺意』
そして
  僕自身に向ける、艶やかな『殺意』

目の前が薄灰色の藍色に包まれていく。
歌は濃厚で、色がついていないことが不思議なほど、重く暗く、グロテスクな装いをしていた。
音で包み込んで窒息させることが出来そうなほど、分厚くて避けることの出来ない歌声。
ああ、僕はきっとあの男の心を壊せただろう。
立ち上がれないほどの負の感情に押し潰されて息を止めたかもしれない。
それならいい。
なら僕は、こんどは僕を壊す番だ。

軽くなる足元。全身に受ける風。
見下げた空は雲ばっかりだけれど、それにも濃淡や動きがあって、存外、綺麗だった。
何だ。そうか。
この街の景色も、綺麗だ。
そう思った瞬間、まだまだ溢れて来ていた歌が、柔らかさを得た気がした。
薄っすらとあいていた目を、名残惜しく閉じていく。
落下していく体に重力を感じながら、逆に心は今までで一番軽くなり、空を飛んでいけそうな錯覚すらした。
意識は確かに、天国でも地獄でもない世界に、上昇していっていた。


真っ黒な網が、僕をすくいとっていくまで。