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 五分後に息を切らしてかけつけてきた三人に、トムは憂慮のたっぷりこもった視線を投げかけた。いったい何だってお前らは俺をデブ呼ばわりしてやまないんだ? 口に出さずとも伝わるように、苛立たしげに腕まで組んで出迎えたのだが、彼らにセンシティブなハートなどもとより備わっていはしなかった。人を寒空の下で待たせておきながら詫びの一言もなしに、
「どこにやった?」とエディが言った。
「何をだ? 銃のことか?」
「お前が身投げしていないんならそうだな、銃のことだ」ベーコンが進み出てトムの鼻先に指を突きつけた。「あの二丁のアンティークをどこへやった?」
「河に投げたさ」
「河に投げた?」お次はソープだった。こいつらは打ち合わせでもしてきたのか、と思うほどに統制がとれていた。「河に投げた?」ソープは繰り返して、欄干からちらっと川面に目を落とした。「あんなに大事にしていた銃を、あっさり手放したってわけか? 土に埋めるでもこっそり持ち帰ってフラットに隠すでもなく、魚も裸足で逃げ出すような汚い河に、ぼちゃんと投げ捨てたっていうのか?」
「魚に足はないぞ」
「足があるかなんてどうでもいいんだ」
「お前には論理上の欠陥があると指摘しただけだ」
「誰も指摘してくれだなんて頼んじゃいない」
「なら俺の前では黙っててくれ。突っ込まずにはいられないんだ」
「オーケイレディース」エディが高らかに割って入った。「いちゃつくのはストップだ。そういうのは全部後に回してくれ。俺たちが第一に考えなくてはならないのはこのデブ男が捨てた二丁の銃についてであって、それ以外に精を出している場合じゃないんだ」
「その前に一つだけ主張させてくれ。俺はデブなんかじゃ――」
「トム」ベーコンが言った。「どのへんに落とした?」
「そこのポールの左側から落とした。いや、違う、お前から見てじゃない。俺から見て左側だ……そう、そこらへんに落とした。落としたつもりがでっぱりに引っかかっちまって、死ぬ思いで手を延ばしてだな」
 ベーコンとエディは指示したあたりに身を乗り出して、クライストと唱和し、頭を引っ込め、顔を見合わせた。そして二人揃ってかぶりを振った。いまだにこの状況についていけていないトムの肩を、ソープが掴んだ。
「惜しかったな」
「ああ?」
「死んじまえばよかったのに」
「――おい、俺はいつまでお前らの暴言を我慢しなきゃいけないんだ? これは人権侵害だぞ」
「二十五万ポンドをドブに捨てた奴に人権などない」
「二十五万ポンド?」
「二十五万ポンドから三十万ポンドだ。かける2するのも忘れるな」
「どういう意味だ?」
「単純なかけ算もできないのかお前は? 三十万ポンドに2をかけると――」
「六十万ポンドだ。バカ、俺が聞いてるのはそんなことじゃない。覚えてないなら教えてやる、あれは俺がニックから七百ポンドで買った銃だ。かける2したって千四百ポンド。急いでたから言い値で買ったが、それだけの価値すらあるかどうか」
「自分で確かめろ」
 ばしん、と腹に叩きつけられたのは銃のカタログだった。街頭の下に移動し分厚いそれをぱらぱらめくってみたら、どこかで見たような銃の写真がわんさと載っていた。射程の長いやつが人気だというニックの話もあながち誤りではなかったのか、たまには本当も言うんだな、と思いながら次のページをめくると、まさに先ほど捨てたばかりのファッキンスウィートバレルズが目に飛び込んできた。
「これ――」
 言いかけて、隣ページのキャプションに釘付けになった。一番下。取引価格。ゼロの数。何度数えても四つ、あるいは五つあった。錯覚ではない。
 トムは恐る恐る顔を上げた。六つの目がまっすぐこちらを見ていた。それは穏やかならぬ光景であったといえよう。命の危険を感じたといっても過言ではない。
「やっとで罪を自覚できたようだな、ファットボーイ?」ソープが言った。トムに対する心からの憎しみを、隠す必要性など塵ほども感じていない様子で、「こういうときには何ていうんだ? 『万死に値する』でいいのか、英語の権化様?」
作品名:エンドロールの後 作家名:マリ