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時奪

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すぐにぴんときた。

「臨也の誕生日」
「せいかーい!!」
「なんだ、ちゃんとプレゼント買ったのか?」
「勿論、恩を売る為だよ!」
「自(わたしたちのたんじょうびに)……返(たかいものをかってもらう)……」

この二人らしい。見返り目当てとは、少しこの三人の兄妹関係を疑うが、普通じゃないのは理解している。改めて記念日だと言われると俺も何か贈った方が良いのかもしれないと腕を組んだ。毎年、臨也の誕生日には俺が料理を作ったり、仕事で疲れた臨也をマッサージしたりと肉体的奉仕が多かった。バイトしていない俺には自由に使える金が無いからだ。とはいえ最近では、外に出る事もあって小遣いと称して万単位で貰っていた。そしてほとんど使っていない。今年なら何か買えるかもしれない。

「俺も何か買おうかな」
「静雄さんに買って貰ったらイザ兄、すっごい喜ぶよねクル姉! 私たちが買ったの捨てちゃうかも」
「貰(それでもおかえしはもらうけどね)……」

甲高く話す二人を見ながら考えを巡らせる。人間に対しては欲深な臨也だが、物欲に関してはそうでもないように思える。高級ブランドのティーカップを俺が不注意で割ってしまっても大して気にした風も無くすぐに捨ててしまった。ブランド志向という訳でもなさそうだが、俺に買い与える服や財布は大抵ひとつで万を超えている。学校で机の上にぽんと置いたままの俺の財布を見て友人たちが「普通の高校生が持つブランドじゃない」とぎょっとしていたのを覚えている。そこらについては疎い俺が首を傾げたのは言うまでもない。幾らなんだと聞かれても「さあ?」としか言えなかった。
だから俺がブランド物を買うのは正直賢いとは思えない。どれがどれだか判らないし、臨也の好みもこればかりは関知していない。かといって何を買えば良いんだろう。唸り始めた俺に四つの眼が向けられた。

「どうしたの?」
「いや……臨也って何を欲しがるんだろうと思って」
「……訊(きいてみたらどう)……?」
「なんかこういうのは本人には知られたくない」
「サプライズってやつだね!」

眼を輝かせた舞流が机に乗り出した拍子に袋が動く。

「お前らは何買ったんだ?」
「ネクタイピンとバックルとベルト。イザ兄には勿体無い出費だよね!」

装飾品の類か。盲点だったな。でも臨也ってピアスホールとか空いてないし、指輪はもうしているし。俺が贈れば喜んで耳に穴をあけてくれるだろうけどあれって痛いって噂だし……。妹と被ったら、これは自慢でも自惚れでもなく、俺が贈ったものを身につけるだろう。嬉しいけど、それは二人に悪い。幾ら見返り目当てと公言しているとはいえ、実の兄にきちんと自腹で買う辺り愛情は持っているはずだ。それにある程度は喜んで貰えるように考えて購入したはず。その時間も兄への想いも無駄にはしたくない。考え直すと臨也に構う人間で、俺がこれだけ臨也との接触を赦しているのはこの二人だけだった。これがもし紀田だとかだったらそのまま物を潰すだろうから。

「うーん……」
「悩(まだきまらない)……?」

考え過ぎて頭から煙が出そうになっている俺にいきなり舞流が表情を明るくする。

「じゃあ一緒に選んであげる!」
「は?」
「静雄さんって今でも引き籠ってるんでしょ? 買い物に付き合ってあげる。一人じゃあれだけど私たちと一緒ならイザ兄も怒らないし!」
「い、いや、今は高校行ってるけど」
「うっそ!! よくイザ兄赦したね?」

九瑠璃も眼を丸くしている。この二人は臨也の俺への執心振りを目の当たりにしている為に衝撃も強いんだろう。その割に兄が見ず知らずの男と同居している事についてつっこみを入れない辺り、この二人も臨也の妹だ。

「成(どうりで)……肌(ひやけしてるんだ)……」
「あ、そういえば。昔は幽霊みたいだったもんね。なら余計に良いよ、何か買いに行こう!」
「でも、悪いし……」
「固い事言わないで! 静雄さんとデートしたいし!」
「独(ひとりでなやむより)……共(いっしょに)……」

確かにこのまま俺だけで考えても答えは見えてこない。それに外に慣れ、流行も判る二人の存在は心強い。色々なものを眺めていたら案も浮かぶかもと頷いた。大袈裟にやったーと両手を上げる舞流に思わず笑みが零れる。そんなに嬉しいのか。

「じゃあ早速出かけようか!」

性急な舞流が席を立つ。一度部屋に戻って財布と携帯を持ってから玄関で待つ二人を追いかける。俺も浮足立っていたから、書き置きを残すのをすっかり忘れていた。

作品名:時奪 作家名:青永秋